第15話 フルールの踊り

 フルールはサルタに会えた感動のまま家路に着き、直ぐにオリビアに、サルタと一緒に踊りの練習をしてもらえるのを興奮気味に話し、明日着ていくものを選んで欲しいと頼んでいた。

 オリビアは目を大きく開け驚いていたが、高揚し頬を染めたフルールの顔を見て、うっすら涙を浮かべ大きく頷いた。


 夜が明けるのが待ち遠しかったフルールは、朝早く目覚め着替えを済ませ、サルタに会えることを心待ちにしていた。

 窓の外を眺め、自然と鼻歌を歌っていた。


 娘の部屋から聞こえてくる鼻歌を聞きながら、落ち着かない様子の娘に顔を綻ばせ、ジャンは久しぶりに心地の良い朝を迎えられた。


 家族が集まり一緒に朝食を取っていると、フルールの食事が進んでいないことに気がついたオリビアが、

「もう少し食べなさい。お腹が空いてると踊れないわよ」

 そわそわして胸がいっぱいなのだろうか、フルールは小さく返事をしていたが、やっぱり食が進んでいなかった。緊張しているようだった。

 オリビアはパンに具材を挟んで、果実水と一緒にマリエラに持たせることにした。


 準備が整い、ペテルとフルール、マリエラは、サルタと約束した場所に徒歩で行けるため、フルールに合わせた足取りで歩いていた。


「おはようございます。ようこそいらっしゃいました」

 サルタは優しい声で三人を迎えてくれた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 ペテルの挨拶に合わせ、フルールとマリエラは頭を下げた。


「では、始めましょうか」

「はい」

 サルタの声に三人は答えた。

 サルタは「まず準備体操ね」といって、柔軟体操を始めた。

 三人は見よう見まねで、身体を動かしていく。


「はいでは、踊ってみましょう」

「えっ···」

 三人はサルタの言葉の意味が分からずに顔を見合わせていた。

「私の踊りはね、特に、振り付けとかはないのよ。音に合わせて身体を動かしているだけなの。フフフ。驚かせたかしら?」

 とはいっても、三人は踊ったこともない。

 サルタは「そうね」といってしばらく考え、「これはどうかしら?」といって、目の前で踊って見せてくれた。


 フルールはサルタの踊りを真似て、体を動かしていたが、ペテルとマリエラはフルールの踊りをじっと見ているだけだった。


 サルタの踊りとは少し違ったが、フルールの踊りには惹き付けるものがあった。

 元々サルタの踊りには振り付けがないといっていたので、フルールの踊りは洗練されてないものの、彼女なりの表現力が見て取れた。


 サルタもフルールの踊りに目を細め嬉しそうな顔で見ていた。

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