第14話 舞姫サルタ

 ジャンはテンラム舞踊団の舞姫サルタに会いに来ていた。

 お互いに挨拶を交わし、舞踊団の団長とサルタはソファーに並んで座り、ジャンは話を始めた。

 事情を話すと長くなるので、娘に会って欲しいと単刀直入にお願いした。

「サルタさん、貴女の踊る姿を見た私の娘が、貴女にお会いしたいと言うのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、喜んでお会いしましょう」

「ありがとうございます。娘に伝えます」

「では、早速日時を決めましょう」


 ジャンは簡単にサルタと約束することができ拍子抜けしていた。

 王都でも人気の舞姫と聞いて、傲慢な態度を取られるのではないかと、多少のお金を持ってきていたが、無用だった。

 気さくで明るい女性で安心した。


 ジャンは家に帰り、フルールに伝えた。

 フルールは飛び上がり喜んだ。

 ペテルとマリエラも一緒に連れていくことにし、サルタに会うことを楽しみにしていた。


 ジャンは舞踊団が泊まっている宿屋の一室を予め借りていて、そこで子どもたちとサルタに会うことになっていた。

 早めについたジャンたちは先に部屋のソファーに座っていた。フルールは目を輝かせていた。

 ジャンは娘の嬉しそうな顔を見て感極まっていたが、なんとか堪えていた。


 お化粧も衣裳も着けていないサルタは、普通の華奢な女性だった。

「サルタです。今日はお会い出来て光栄です」

 サルタは部屋に入って来ると、深々と頭を下げて挨拶をしてくれた。ジャンは立ち上がり、

「今日はお時間をいただいてありがとうございます。こちらは息子のペテル、娘のフルール、そして娘の友達のマリエラです」

 ジャンはマリエラのことを敢えて娘の友達だと紹介した。


「まあ、かわいいお嬢様方ですこと」

 サルタは娘たちを褒めてくれた。

「ありがとうございます。サルタさんの踊りが素晴らしくてお会いしたかったのです。あ、あの···私でも練習したら踊れますか?」

 サルタの優しい声かけで、フルールは思っていることを正直に言えた。

「踊りが好きなのね」

「はい。私、顔に傷があって···みんなの前に出たくなくて···ずっと隠して···でも、サルタさんが顔に綺麗な布を着けていたのを見て、私···私も、サルタさんみたいに、みんなの前で···踊りたい」

 フルールはゆっくりだったが、サルタに思いを打ち明けた。

 話を聞いていたジャン、ペテル、マリエラはうつ向いていたが、フルールの言葉をしっかりと受け止めていた。


「わかったわ。明日から一緒に練習しましょう。動きやすい服で来てね」

「···えっ、いいの?」

「もちろんよ。お兄さんたちも一緒にどうかしら?」

「僕もですか?」

「ええ、妹さんが心配でしょ」

「あ、ありがとうございます」

 ジャン、ペテル、マリエラは涙を堪えていた。

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