第16話 サルタからの手紙
「フルールちゃんは踊りが好きなのね」
サルタは嬉しそうに言った。
「はい。歌も踊りも大好きです」
「上手に踊れているわ」
「ありがとうございます」
フルールはサルタに褒めてもらい、嬉しくて仕方なかった。
三人が帰った後テンラム舞踊団の団長と話をしていたサルタは、まだ幼いフルールの踊りを見て、もう少し大きくなれば、二人で踊りたいと言っていた。
家に帰ったペテルは、サルタに褒められたフルールのことを、オリビアに興奮気味に話していた。
「良かったわね。フルール」
オリビアは思わず三人を抱き締めた。
その日の夕食は、フルールの踊りの話で盛り上がり、楽しい一日であったことを家族みんなで喜んでいた。
『春咲きまつり』が終わり、しばらくすると、ペテルは専門学校の寮に入るため、従者とともに馬車で王都に旅立っていった。
別れ際に家族は抱き締め合い、長期休暇のときに会うことと、手紙のやり取りを約束した。
テンラム舞踊団はまだしばらく滞在するようで、フルールは毎日のようにサルタに踊りの指導を受けていた。
一週間後テンラム舞踊団も次の街に向かい旅立った。
夏が近づいてきたある日、フルール宛にサルタから、兄のペテルに会いに王都へ来るなら、王都で会いましょうという内容の手紙が届いた。
フルールは慌てて、ジャンとオリビアに相談をした。
ジャンとオリビアは顔を見合せ、一瞬息が止まったかのように驚いていたが、返事を待つフルールの様子で徐々に落ち着きをとり戻していった。
ジャンは右手を額にあて、うーんと唸ると自分は仕事で行けそうにないが、オリビアとマリエラが一緒だと安心だと思い、王都へ行くことを認めた。もちろん供も数人同行させるつもりだ。
フルールはジャンの言葉に、くるくると回りだし、最後にスカートの裾を持ち、習ったばかりのカーテシーを父の前で披露した。
半年前のフルールでは考えられなかった。
ジャンはフルールの背丈に合わせて膝を折ると、両手で頬を包み「気をつけて行っておいで」
とにこやかに言っていた。
フルールは夢に向かって歩いている。
この先困難があるかも知れないが、何があっても家族を支えていこうと、ジャンは改めて意志を固めていた。
オリビアは前を向きだした愛しい娘の笑顔を絶やさず、陰日向になり、唯一の味方であることを心に誓っていた。
夏になり、ペテルの長期休暇の時期に合わせ、オリビア、フルール、マリエラと供の者は王都へ旅立って行った。
王都までは馬車で二日間、約半月後にペテルとともに四人で帰宅する予定だった。
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