第8話 女将さんへの感謝

 マリエラは宿屋の女将さんにジャンが言ってくれたことを話した。

「マリエラは迷っているの?いいお話じゃないの。あなたはまだ子どもだし、ギルド長のところなら安心よ」

「でも女将さんには本当にお世話になって、恩返しも出来ないままでは···」

「まぁ。恩返ししてもらおうなんて思ってないわ。そうね。もう少し大きくなったら、一日私の買い物に付き合ってもらおうかな。フフフッ」

「ありがとうございます。女将さんには本当にお世話になりました」

 マリエラは涙ぐみ心から女将にお礼を言った。

「じゃあ決まりね。明日はギルドに行っておいで」

「はい」

 マリエラは女将さんの優しさに喜び、ご恩を忘れないように心に刻んだ。


 マリエラはジャンの言ってくれた言葉が嬉しかった。『聡明なお嬢さん』

 幼い頃から両親の元で商人の知恵を習い、日々勉強していたマリエラは、幼馴染みや近所の子どもに疎まれていた。

 背が高く細身で、頭の良いマリエラを男の子たちは敬遠していた。

 女の子なのにとか、可愛げがないとか、商人なのに頭が良くてもねとか、周りの大人たちも平気で陰口を言っていたのをマリエラは知っていた。


 ジャンに、初めて会った人に褒められて、今までの努力が認められたような気がした。

 両親もマリエラの努力を知っていつも褒めてくれていた。それが嬉しかった。誰になにを言われても気にしないようにしていた。


 大好きだった両親を急に一度に亡くし、途方にくれていたマリエラに、暖かい食事とベットを差し出してくれた女将さんに心から感謝した。

「あなただけが助かったなんて思わずに、あなたを助けたご両親のことを決して忘れず、感謝できる日々を過ごしなさい」

 女将さんの言葉がなかったら、自分だけ助かったことに悲観し、絶望の日々を送っていただろう。

 マリエラは毎日寝る前には、必ず手を合わせ心のなかで両親に感謝の言葉をかけていた。

 今晩からは女将にも感謝の言葉をかけようと、マリエラは心に誓った。


 翌朝マリエラは、宿屋の前を掃き掃除し、花瓶の花を生けかえ、女将さんに挨拶をしてギルドに向かった。

 花瓶の中の真っ白なクレマチスの花は、朝露に濡れ、朝日に輝いていた。


 午前中の建設ギルドは仕事の依頼や請負人などが多く、騒然としていた。

 人波が落ち着くまでギルドの中にある掲示板などを読み、しばらく時間を過ごしていたが、受付の奥から一人の女性がやって来て声をかけてくれた。

「あなたは、マリエラさんかしら?」

 急に声をかけられて驚いたが、

「はい。マリエラです」

「お待ちしてましたわ。どうぞこちらへ」

「はい。ありがとうございます」

 マリエラは女性に案内されて、奥のギルド長の執務室に案内された。

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