第25話 お誕生日会

 誕生日会の主役であるポルトは、王子様みたいに輝いていた。

 父親のラーシュとは違い、背が高く品があり、目は大きくてグリーンの瞳が綺麗だった。

 仕立てのよいブレザーとズボンは濃紺で、光沢のある白いシャツ、薄い水色のクラバットには、アメジストのピンを着けていた。


 フルールは初めて見る貴族の男性に心を奪われた。マリエラもうっとりとポルトを見つめていた。

「素敵ね。王子様みたい」

 マリエラがささやくと、フルールも大きく頷いた。

 フルールとマリエラは顔を見合わせ、士気を高めていた。


 フルールの出番は劇団の演技の後だった。

 楽団の演奏とともにフルールは舞台の真ん中に出ていった。

 楽団の音楽を聞いているうちに、フルールは次第に緊張が解れていき、音を丁寧に聞き、思いのままに体を委ねた。


 踊り終わったフルールは舞台から離れると、気が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。

 立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

 マリエラは慌ててフルールを支えにいったが、たまたま近くにいて先に気がついたポルトは従者に命じ、従者はフルールを抱き抱えていた。


「ありがとうございます。緊張していたのだと思います」

 とマリエラは従者に向かってお礼を言うと

「ありがとう。素敵な舞いだったよ。これは葡萄ジュースだから飲んでも大丈夫だよ」

 といってポルトは持っていたグラスを、フルールに渡していた。


 ポルトは先ほど姉のスランから、葡萄ジュースを受け取っていた。

 ジュースの中には商人から買い取った薬が入っていたので、スランは慌てたが、フルールが飲んでしまったので知らぬふりをした。


 葡萄ジュースはよく冷えて喉ごしもよく美味しかったので、フルールは半分ほど一気に飲み干した。冷たいものを飲んで落ち着いたのか、フルールはゆっくり立ち上がり、ポルトと従者にお礼を言い、マリエラと一緒に楽屋に帰っていった。


 夕食は豪華で楽団や劇団のみんなと、誕生日会の興奮が続き賑やかで楽しく過ごしていた。

 倒れてしまったことが心配だったので、マリエラはフルールを早めに就寝させることにした。

 マリエラがフルールの異変に気がついたのは、真夜中を過ぎた頃だった。


 フルールは高熱でうなされていた。

 マリエラは慌てて近くにいた、男爵家の使用人に医者を呼んでもらうようにお願いをしたが、真夜中過ぎだったので、使用人は顔をしかめていた。

 マリエラはそれならと、使用人に許可を貰い、厨房で氷と水の入ったバケツを貸して貰い、バケツにタオルを浸し、朝までフルールの体を冷やし続けた。


 朝になり使用人は男爵の許可を受け、医者に連絡をし、フルールの容態を診てくれることになった。

「これは···毒物の可能性があります」

「えっ···」

 マリエラは医者の言うことが信じられなかった。

 招かれていた演者たちは皆同じものを食べていたはず···


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