第26話 フルールの容態

 マリエラと同じものを食べていたフルールだけが口にしたものと言えば···

 ポルトから貰った葡萄ジュースだけ。


 マリエラは医者に、フルールが緊張で倒れたときに葡萄ジュースをポルトから貰い飲んだことを告げた。

 医者は「うーん」と唸り、男爵にそのまま伝えることにしたようだった。

 医者は男爵の執務室に寄り、帰る前にもう一度フルールの容態を診に来てくれるようだった。

 フルールの意識は朝になっても戻っていなかった。


 フルールを診た医者は男爵の執務室に来ていた。

「少々お耳に入れたいことが···」

「あの娘大騒ぎして、どうだったんだ?」

「毒物を飲まされた疑いがあります」

「なんだと!なんで、毒なんだ。俺は知らないぞ!」

「申し上げにくいのですが、ポルト様から貰った葡萄ジュースの中に入っていた可能性があります」

「···どういう事だ」

「私もどういう事なのか?ポルト様にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 男爵は医者の話を聞いてしばらく考え込んでいたが、フルールの事は伏せポルトに話を聞くことになった。

 医者は黙って話だけを聞いていた。


「お呼びですか?父上」

「ああ、昨日の事なんだか、踊っていた娘に飲み物を渡したのは、ポルトか?」

「はい、そうです。たまたま姉上から貰った葡萄ジュースを持っていたので、与えましたが何か?」

「いやなんでもない。娘がジュースを気に入っていたので、知っているものに話が聞きたかっただけだ。そうか葡萄だったのだな。娘の親には世話になっているからな」

「そういうことですか。では私はこれで」

「ああ、呼び出してすまぬなポルト。忘れないうちにと思ってな」

「ては、失礼します」

 男爵は唸り声を上げた。

「あいつめ!」


 次に男爵はスランを呼び出した。

「おまえ、どうしてくれるんだ」

「何がです?」

「ポルトに毒入りのジュースを渡しただろう」

「···毒入りって···ただの下剤ですわ」

「なんだとっ」

「出入りの商人から下剤を買いましたの。ポルトにちょっと恥をかかせたかっただけですわ」

「なんてことを···」

「あの娘に何かあったのですか?」

「おまえそこまで知ってて···」

「平民の娘など、どうにでもなるでしょ?」

「あの娘はノクスで建設ギルドを束ねている者の娘だ。どうにでもなるわけではない」

「えっ···」

 男爵は大きく溜め息をつき、

「はぁー。スラン。···今すぐ家から出ていけ。祖父母の家にでも行け」

「···承知いたしました」

「結婚式まで、家から出るな」

「···」


 黙って聞いていた医者は頭を下げ、無言で執務室を出ていった。

 スランは男爵に言われるまま、直ぐに家を出て行き、結婚式まで母方の祖父母の家に身を寄せることになった。

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