第24話 姉と弟


 ドゥラーク男爵家には姉と弟の二人姉弟がいた。

 典型的な貴族の家族で、夫婦としての対面的な義務はこなすが、仲はあまりよいとは言えない。

 男子を重んじる家庭で、娘は家の繁栄のための駒でしかない。

 二人っきりの姉弟でありながら、両親の子どもの扱いははっきりとしていた。


 姉のスランは弟のポルトが嫌いだった。

 スランとポルトとは三つ違いで、男子として産まれてきた彼への両親の期待は大きかった。

 何もかも違う。

 スランの誕生日には、ドレスや宝石のみ。

 誕生日会は身内だけ。

 特別な事はなにもない。


 パラディス王国の成人は16才で、ポルトはまだ15才。

 スランの成人の誕生日会も身内だけだった。

 今回は成人前の領地での誕生日祝い。

 スランは何もかも気に入らなかった。

 スランは既に婚約者がおり、三ヶ月後男爵領から離れた所に嫁ぐので、来年のポルトの成人のお祝いに呼ばれるかどうかもわからなかった。


 スランは密かに出入りの商人から下剤を買い、ポルトに恥をかかせるため、タイミングをみて飲ませるつもりでいた。

 錠剤を細かくしてドレスのポケットに入れ持ち歩いていた。


 男爵家の出入りの商人は男爵の我儘に呆れていた。貴族だからといって理不尽なことを言われる。

 値段を押さえろだとか、品質を上げろだとか、急に仕入れの量を減らされたり増やされたり、融通を効かせた割に、平民だということで見下してくる。儲けも少ないので、手を引くタイミングを狙っていた。


 男爵家のお嬢様に下剤が欲しいと言われ、男爵に腹が立っていた商人のメルカトールは、栄養剤に軽い毒薬を混ぜた薬を渡していた。少し具合が悪くなる程度だろうとメルカトールは軽く考えていた。

 この時は思わぬ事態になることだとは思わずに···



 ポルトの誕生日会が始まった。

 フルールは一緒に招かれていた楽団や劇団の人たちと仲良くなり、楽しい気持ちのまま、誕生日会当日を迎えることになった。

 何度もリハーサルをし、何度も踊りの確認をしてきた。マリエラもいるし、体調も万全だった。


 ラーシュ・ドゥラーク男爵が激励のため、招かれた者たちがいる楽屋を訪れた。

 男爵は、背は低いが髪はふさふさで、腹はでっぷりとし、目は狐目の容姿で、前歯は二三本なかったが、はっきりとした口調だった。

「今回は我が息子ポルトのために、招待客が納得するものを披露してもらおう」

「はい。かしこまりました」

 激励なのか命令なのか、楽団の団長が代表で返事をすると、他の者は深々と頭を下げた。

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