第53話 ペテルの独り言

「フルールとシオンの所に行かなくても、僕の家に来ればいいよ。マリエラが僕の仕事を手伝ってくれると助かるんだけど。君が出した答えを否定する者は誰もいないよ」

「ありがとうございます。ゆっくり考えてみます」

 少しスッキリしたように見えたマリエラは、頭を下げ部屋に戻っていった。

 ベンチに残されたペテルは少し後悔していた。

「僕と一緒に来てくれないか?」

 マリエラを前にすると言えなかった言葉を掠れた声で呟いていた。

 ペテルは従者であるマリエラに命令するような事は言いたくなかった。


 シオンとフルールは手を握り合い何度も頷き合いながら別れを惜しんでいた。

 フルールとマリエラは劇団の寮へ、シオンは行商の旅の続きへそれぞれの馬車で向かって行った。

 ペテルとオリビアはフルールたちがお世話になったグレンビー商会やソティラスの屋敷に、お礼かたがた立ち寄りノクスの街に帰って行った。


 帰りの馬車の中でオリビアと二人だけになったペテルは、思い切ってマリエラへの気持ちを口にした。

「お母様、僕はどうやらマリエラに恋をしているようです」

「まあ、いいじゃない。マリエラちゃんは人気者だから早く貴方の気持ちを伝えた方がいいわよ。私はあのがお嫁さんに来てくれたらいいなと、ずっと思っていたわよ」

「えっ」

「あら、マリエラちゃんも貴方のことが好きだと思うけど···違った?」

「へっ、えーーーっ」

 オリビアの言葉にペテルは両手で真っ赤な顔を覆い変な声で叫んでいた。

 しばらくしてペテルは死んだ魚のような目になり、ノクスの街に着くまで何も言わなかった。

 ペテルはへたれな自分を心の中で罵倒していた。

 オリビアはノクスの街に帰っても上機嫌だった。


 ペテルは帰宅後意を決してマリエラに、直接伝えたいことがあるので来月会いに行くと、手紙に書いて送った。

 ペテルは寝食を削って来月のリュード行きに向けて心血を注いだ。

 自分に何かあっても仕事が回るようにジャンの助言の元、部下になる者を数人選抜し鍛え抜いた。

 ジャンはシオンとフルールの婚約のことを話すととても喜んだ。

 ペテルはマリエラへの気持ちを話そうかと思ったが、時期早々なので彼女の返事を聞いてから報告することにした。


 ジャンは小康状態を保っていた。

 ベッドから起き上がり体を動かし食事も取っているようだった。

 フルールの花嫁衣装を見るのがジャンの目標となっているようだった。

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