第54話 ジャンの病状

 ペテルが専門学校を卒業してしばらく経った頃、ジャンは体調を崩し寝込むようになってしまった。

 長年の仕事によるストレスなのか、飲酒のせいかは分からないが、急に食欲がなくなり痩せていった。

 ノクスの街の医者の見立てでは胃腸の不調だということだった。

 ペテルがオリビアとオールリウス伯爵領に向かったのは、妹たちのことが心配だったこともあるが、フルールの主治医をしてくれているマルクに直接会うためでもあった。


 マルクはペテルの申し出に快く応じてくれ、近々ノクスの街に往診に来てくれる。

 フルールに怪我をさせてから、ペテルはジャンに対して不信感しかなく、会話や顔を合わせるのを避けていた。

 ペテルは日々憔悴していく父を見て最初は仕方なく仕事を手伝うようになったが、専門学校での知識を活かし、今では建設ギルドを切り盛りしている。


 往診に訪れてくれたマルクは直ぐにジャンの病状を診てくれ、ペテルに詳しく説明してくれた。

「ジャン様の胃に出来物があるようです。手術をして取り除けば、完治するかもしれませんが、直接病巣を診てみないとなんとも言えません。このまま薬で痛みを和らげる治療もありますので、後はご家族の判断におまかせします」

「マルク先生、ありがとうございます。手術するとしたら早い返事の方がいいですよね?」

「もちろんです。ただ手術も完全ではないのでジャン様やご家族と相談された方が良いと思います」

「分かりました。早速相談してみます」

 ペテルはマルク医師から聞いた話をジャンとオリビアの三人で話し合うことにした。


「お父様は手術をのことをどう思いますか?」

「そうだな。少し時間をくれないか?」

「私は貴方ジャンの考えに従います」

「分かりました。マルク医師の予定をお聞きして、時間が許す限り滞在してもらい、その間に返事をしましょう」

「ああ、そうしてくれるか」

「はい。ではそのように」

 ペテルは家族の話し合いの結果をマルクに伝えることにした。


ペテルは真剣な表情でマルクに聞いていた。

「マルク先生、手術をしなければ父の余命は後どのくらいなんでしょうか?」

「そうですね。なんとも言えませんが、食欲がなければ体に充分な栄養が行き渡りません。食欲が戻れば延命に繋がります。この状態が続けば一年といったところですが、個人差がありますので、何があってもおかしくない状態ですね」

「手術をすれば余命は延びますか?」

「それもなんとも···医者として最悪の状態を申し上げるのですが、病巣が取りきれないと延命にはなりません。ただ、病巣を取り除けば延命が期待できます」


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