第52話 家族との話

 フルールは家族との話が終わり、一人でホテルの部屋に帰るマリエラを呼び止めた。

「マリエラは私と一緒にシオンの家に来てくれるの?」

「シオン様はどう思われるでしょうか?お邪魔になりませんか?」

「私は、マリエラのことを姉さんのように思っているの。一緒に来て欲しいけど、貴女にやりたいことがあるのなら、無理に引き留めないわ。考えてもらえるかな?」

「はい。分かりました」

 マリエラは返事をすると部屋に入って行った。


 ♢


 生まれた時から一緒にいる家族でも、結婚や死別などでいつかは離れて暮らす事になる。

 今は永遠に続くと感じていても限りのある人生に変わりはない。

 親や兄弟であっても独りの人間である。趣味思考が違っていても当たり前。お互いに思いやり慈しみ合うことで人との違いを埋めていく。血の繋がりがあろうとなかろうと信頼し合い、お互いを知ろうとし相手を尊重する。

 自分の持論や価値観を相手に押しつけないこと。恥ずかしいとか難しいとか言わずにたまには本音を言える環境を整える。伝えようとしなければ自分の気持ちは伝わらない。分かってくれているだろうは自分勝手な幻想である。

 自分の心の中は肉親であっても誰にも分からない。


 ♢


 ペテルはシオンとフルールの事を考えていた。

 まさか自分より早く妹の結婚が決まるとは思っていなかった。

 父親のジャンが聞いたらどう思うのだろうか?

 他人にはジャンの体調のことは伏せてあるが、完治することが難しい病に罹っている。

 最近は辛うじて小康状態を保っているが、いつ何が起きても不思議ではないところまで病は進行している。

 フルールにジャンの病状を告げるべきか考えていたが、これを機会に、フルールを一度ノクスの街に連れて帰るのが良いのかもしれないと思った。


 ホテルのレストランで家族と夕食を取り、それぞれの部屋に別れて就寝することになった。

 ペテルは寝付けず何度も寝返りを打っていたが、諦めてホテルの中庭を散歩することにした。

 日中は暖かくなってきたとはいえ、春の夜は肌寒く感じた。眠りを誘い入れるための散歩であるはずが、逆に頭がスッキリ覚めてきた。

 ペテルは苦笑いをしながら寝るのを諦めて部屋に戻ろうとしていたが、ベンチに腰かけるマリエラの姿を見つけた。


「マリエラも眠れないのか?」

「あっ···ペテル様」

 ペテルはマリエラの隣に座り優しく声をかけた。

「何か考え事でも?悩みがあるのか?」

「悩みというほどのことでは···?フルール様とシオン様の所に私がついていっても大丈夫なんでしょうか?」

「マリエラはどうしたいの?」

「私ですか···?あまり考えたことがなかったので、自分がどうしたいのか困っています」

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