第51話 ペテルの話
ペテルはシオンに「時間は大丈夫か?」と聞いて、泊まっているホテルに招待した。
シオンが自分の乗ってきた荷馬車の御者台にフルールを座らせていたのを見て、バドゥールは残念そうに両手を上げ、一人で劇団の寮に帰って行った。バドゥールはフルールとマリエラの外泊届けを出してくれると言ってくれた。
ミトラは名残惜しそうに実家に帰って行った。
ホテルに着いてもシオンとフルールはずっと手を繋いでいた。
フルールと出会った頃は身長が同じぐらいだったシオンだが、今はフルールの頭一つ分は背が高い。
少年だったシオンは、移動の多い仕事のせいか体躯も良く、日焼けして精悍な顔つきになり、グリーンの瞳が引き立ち輝いて見えた。
ホテルではフルールはオリビアと一緒に、マリエラとシオンは別々の部屋を取ってもらった。
応接セットのあるペテルの部屋に5人が集まりこれからの話をすることになった。
オリビアの隣にペテル、マリエラは一人で、ソファーにシオンとフルールが座っていた。
手を繋ぎ寄り添って座っているシオンとフルールにペテルは、
「フルールはまだ未成年だから、まず婚約をして成人してから、結婚式の日取りを決めようと思うがどうかな?」
「はい。お願いします。義兄さん」
「義兄さんは早いかな?···ペテルでいいよ。君のご両親の了解は取れるのかな?」
「大丈夫です。何があっても絶対に了解を取ります。実は近々ノクスの街の郊外に屋敷を持ち、メリディの町から家族を呼び寄せ一緒に住む予定でした」
「フルールと同居かな?」
「いいえ。少し離れた所に至急別邸を建てます」
シオンは少し興奮気味に言ってのけた。
「無理のないようにね。しばらくは別居でも構わないよ」
「僕はフルールちゃんと早く一緒に暮らしたいです。今まで離れていた分寄り添いたいです」
オリビアは「まあ、いいわね」と言って胸の前で両手を合わせ微笑んでいた。
「フルールは劇団を辞めるの?」
「···辞めるのではなく···大きな公演の時だけ出たいかな···どうかな?シオン」
「いいよ。僕が送り迎えをするよ。フルールちゃんの踊りを楽しみにしている人のことを考えたら、僕の気持ちだけで劇団を辞めさせるわけにも行かないからね」
「ありがとう、シオン」
「伯爵領に近いメリディの郊外にも別邸を計画しよう」
やれやれという態度でいたペテルだが、シオンがフルールへの真っ直ぐに向ける愛情に感心していた。
マリエラは黙ってペテルたちの話を聞いていた。『私の役目は終わったのかな?』と考えていた。
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