第50話 シオンの求婚
ペテルはシオンを凝視していた。
オリビアやフルールたちとは馴染みがあるかもしれないが、シオンとは初対面である。
ペテルはシオンの不躾ともいえる態度に不思議と不快感がなかった。
ペテルは重い口を開きぶっきらぼうに言った。
「フルールがよいと言うなら、私は何もいうことはないよ」
「機会を与えて下さりありがとうございます」
シオンはペテルの言葉を聞いて大きく息を一つ吐きフルールの前に跪いた。
「フルールちゃん。私と結婚を前提にお付き合いして下さい。初めて貴女を見たときから私の気持ちは決まっていました。貴女以外の女性を妻にするつもりはありません。私が貴女に誇れることはありませんが、貴女を想う気持ちに嘘偽りはありません」
シオンは左胸に当てていた右手をフルールに差し出した。
フルールは照れながらもシオンの手を取り、
「私もシオンが大好きよ。ありがとう」
一筋の風が吹き、白い林檎の花びらは甘い香りを乗せて二人を包むように舞っていた。
マリエラはシオンとフルールの様子を見て、羨ましい思っていた。
こんな風に真っ直ぐに人に気持ちを伝えられたら、どんなに幸せなのだろう。
後先考えずにただ自分の思っていることを口にするだけで、輝く未来が広がって行く。
マリエラは胸の奥が苦しくて、涙を流さずにはいられなかった。
オリビアは嬉し涙をながし、
「フルールよかったわね。シオンくん、フルールのことをお願いね」
とシオンのことを歓迎し喜んでいた。
ペテルは仏頂面のまま仁王立ちでいた。
バドゥールは手を叩いて喜んでいた。
ミトラは真っ赤な顔で羨ましそうに二人を見つめていた。
数分間の出来事がとても長く感じられ、遠くから聞こえてきた教会の鐘の音で、ペテルは息を吹き返しフルールに言った。
「フルールよかったね。おめでとう」
わぁっと歓声が上がった。
ペテルがふとマリエラを見ると、うつ向いて涙を流している姿に、胸が締め付けられる思いだった。
バドゥールがペテルにそっと近づき、
「ペテルくんもシオンくんのように自分の気持ちに正直になったらどう?ミトラくんは分かりやすくしょっちゅうマリエラちゃんに会いに来るよ」
とペテルだけに聞こえるように囁いた。
ペテルはへっ?という声が漏れ、バドゥールは小さく頷き微笑んだ。
ペテルは右手を胸に当てひと息ついた。
正直な自分の気持ち。
ペテルはマリエラの側に行き、
「マリエラ、僕は泣いている君を見ると、胸が締め付けられる気持ちになるんだ。これで涙を拭いてくれないか」
と言ってハンカチを差し出した。
マリエラは小さな声で「はい」と言ってペテルから差し出されたハンカチで涙を拭った。
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