第49話 シオンとの再会
翌日はオリビアとペテルをリュードのホテルに迎えに行き、近くに小さな林檎園のある公園へピクニックに出かけた。
抜けるような青い空に点々とある白い雲に手が届きそうな位澄んだ空気の日だった。
隣の林檎園からは林檎の花びらが舞い、舞台のセットのように風に揺られ甘い香りと共に、ひらひらと公園にも落ちてきていた。
フルールはしばらく花びらの舞う様子を見ていたが、自然に体が動いていた。
音楽に合わせるのではなく、花びらの散りゆく様子に合わせて静かに踊り出した。
オリビアたちはフルールの踊りにしばらく見とれていた。
今日のフルールの踊りに音楽は必要なかった。
フルールの踊る様子を、少し離れていたところからひとりの青年が立ち止まって見つめていた。
青年は惹き付けられるようにゆっくりとした足取りでフルールの近くまでやって来た。
「フルールちゃんなの?」
フルールは踊りを止め声をした方に振りかえると、
「貴方は···シオン?シオンなの?」
「ああ、シオンだよ。フルールちゃん···会いたかったよ」
シオンは涙ぐみフルールを真っ直ぐに見ていた。
「私もね、私もシオンに会いたかったの」
フルールはシオンに駆け寄り、シオンの右手を取っていた。
シオンはフルールの手を少し強めに引っ張り、フルールを腕の中に優しく包み込むように抱き締めた。
「髪飾り着けてくれているんだね。フルールちゃんによく似合うよ。綺麗だよ」
「ありがとうシオン」
フルールはシオンの背中に手を延ばし、抱き締めて返していた。
オリビアたちはただ呆然と立ち尽くし、二人の様子を伺っていた。
しばらくしてペテルが大きく咳払いをした。
二人は真っ赤な顔で離れて行った。
「フルールの友達のシオンくんなのか?私はフルールの兄のペテル、隣にいるのが母のオリビアだよ」
「はっ、はい。オリビア様には何度かお会いしています。こ、この鞄もオリビア様の手作りです」
シオンは緊張して、ペテルに答えていた。
「シオンくんは私たちがここにいるのを知っていたのかい?」
「いいえ。偶然です。行商の途中です。フルールちゃんには中々会えなかったので、嬉しくてつい···失礼しました」
「フルールは来年成人する女の子だよ。人前で抱き締めるのは良くないな」
「申し訳ございません。フルールちゃんがとても可愛らしくて···」
「まあ、可愛いのは分かるけど···」
シオンは姿勢を正し真剣な顔で、
「ペテル様、お願いがございます。フルールちゃんと結婚を前提にお付き合いすることを許して貰えないでしょうか?」
と言いペテルに頭を下げた。
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