第48話 オリビアの気持ち

 ペテルと母親のオリビアがオールリウス伯爵領を訪れることができたのは、約半年後のことだった。

 フルールたちはオリビアとの再会を喜んだ。

 オリビアは数年振りに見る我が子の成長を見るなり涙を流していたが、同時に逞しくなったフルールたちを誇らしく思っていた。


 オリビアは何度かひとりで伯爵領に来る計画をしていたが、ドゥラーク男爵の動向や夫ジャンの体調不良などがあり、ペテルの助言に従い、今回の訪問となっていた。

 オリビアはマリエラの成人のお祝いが出来なかったことを悔いていた。ノクスの街から洋服や靴などを劇団宛に送っていたが、マリエラの側にいて直接お祝いを言いたかった。


「マリエラ、成人おめでとう。お父様とお母様もきっと楽しみにしていたわ。お祝いの日に一緒にいてあげられることが出来なくて、ごめんなさい」

「奥様、ありがとうございます。そのお気持ちだけで、私は充分に幸せです。贈り物もとても気に入っています」

 オリビアはマリエラを抱き締めながら『フルールのことをいつもありがとう』と囁き頭を撫でていた。


「一年も遅れてしまったけれど、マリエラの成人のお祝いをしましょう。ミトラくんに聞いてレストランを予約してあるのよ」

 フルールとマリエラは両手を繋ぎ上下にブンブンと振って喜んでいた。


 レストランで家族と一緒に食事をするのは何年ぶりなんだろうか。

 フルールは嬉しくて仕方がなかった。

 オリビア、ペテル、フルール、マリエラ、ミトラ、バドゥールは馬車と馬に分かれて街のレストランに向かって行った。

 バドゥールはフルールを乗せて馬で駆けていた。フルールは満面の笑みだった。

兄様あにさま凄い」

「しっかり掴まってろよ」


「はい。楽しいわ」

「今度また馬で出かけようか?」

「約束よ。楽しみだわ」

 みんなはレストランに着いて驚いていた。

 リュードの街の郊外にあるレストランは、湖の波打ち際にある断崖絶壁に、波で侵食された洞窟の中にあり、奥の鍾乳洞には蝋燭が灯され、幻想的な雰囲気であった。

 レストランから眺める湖は絶景だった。


「素敵なところだわ」

 オリビアは呟くように言った。

 他の者はただ黙って頷いていた。

 料理を注文し、食事が進むと楽しい話が止めどなく飛び交っていた。

 レストランからのサプライズで、弦楽器を持った楽士が現れ、賑やかな音楽を奏でると、フルールは立ち上がり音楽に合わせて踊っていた。

 フルールの踊りを見た他のレストランのお客も踊り出していた。

 賑やかで楽しかったレストランでの食事会は、マリエラにとって忘れられない成人のお祝いとなった。

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