第47話 ミトラの思い

 グレンビー商会の三男ミトラは建築の専門学校を無事に卒業し、リュードの街に帰ってきた。

 友達のペテルの妹の従者であるマリエラに心を惹かれている。

 マリエラは背が高く、口数は多くなく聡明でしっかりしている。表情はあまり豊かではないが、フルールを思いやる気持ちが溢れていて、二人を見ていて微笑ましいと思った。

 ミトラは男兄弟の中で育ったので、女の子の華やかさや優しさがとても新鮮だった。


 ペテルが妹の前だけに見せる笑顔に最初は驚いたが、フルールたちと接するうちに、自分も笑顔になることが多くなった。

 彼女たちはミトラにとって癒しだった。

 かわいいと全身で思えるほどフルールたちを愛おしく思っていた。


 ミトラはマリエラに恋をしてしまったようだった。

 ミトラは家の手伝いをしながらも、建設ギルドから仕事を請け負い、商業施設や店舗などの設計や建築などを手掛けている。

 仕事の合間を縫ってフルールたちに会うために、リュードで有名な菓子店に出入りし、差し入れをしている。


「あっ。ミトラ様こんにちは」

「フルールちゃん、元気そうだね。シュークリームを買ってきたんだ。マリエラと食べよう」

「うん。マリエラを呼んでくるわ」

 マリエラは劇団のお手伝いをしていたので、フルールは呼んでくることにした。


 しばらくするとマリエラはお茶の用意をして、フルールと一緒にミトラの前に現れた。

 三人でテーブルを囲みミトラが持ってきたシュークリームを頬張った。

「美味しいね」

「はい。美味しいです。ミトラ様いつもありがとうございます」

「君たちの喜ぶ顔が、僕の癒しなんだ。ミトラ様じゃなく、ミトラと呼んで」

「じゃあ、ミトラさん···でいい?」

「うーん。まぁいいか」

 三人は束の間の楽しいひとときを過ごしていた。


 ノクスの街で仕事をしているペテルは、ミトラから来る手紙にイライラしていた。

 仕事の合間にティアオ劇団に訪れることができれば、フルールたちの様子を目て来てほしいと頼んではいたが、ミトラの惚気ともとれるマリエラのことを綴った手紙は心底不快であった。

 ペテルの手の中にあった封筒は握り潰されていた。


 特に敬称なしで名前で呼んでくれなどと、口にしているミトラの頬を打ちつけたかった。

 わざわざ手紙に書いてくることなのか。

 普段から冷静沈着なペテルは我に返り、額に手を当てひとり溜め息をついていた。

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