第36話 伯爵領のお医者様

 伯爵領で評判の医者のマルクは、研究熱心で奢ることがなく、どんな患者にも寄り添っていた。

 彼はまだ二十代と若く何事にも熱心で前向きであった。


 若い医者のマルクとフルールは直ぐに打ち解けた。

 フルールはマルクの注意を真剣に聞いていた。

 マルクはしばらくは踊る時間を減らすこと、きちんと食事を取り、夜更かしをしない、決められた通りに薬を飲む、体の変化を感じたら必ず相談をすることなど指導していた。

 フルールはマルクの言葉の一つ一つに頷いていた。


 マルクが処方してくれる薬はフルールが飲みやすいように工夫してあった。

 マルクはフルールたちと一緒に伯爵領まで付き添ってくれ、リュードの街の滞在先にも往診に来てくれるようだった。


 フルールの目のことを心配していたソティラスは、マルクを執務室に呼び病状を聞いていた。

「このまま薬を飲んでもらえれば、失明することはないでしょう。ただ、元通りに見えるのは難しいと思います」

「ありがとう。失明が避けられてよかった」

「はい。後は彼女の回復力に期待しましょう」

 ソティラスはフルールの病状とマルク医師の事をオリビアに知らせるために手紙を書いた。


 数日経ちメルカトールがメリディの町からソティラスの屋敷にやってきた。

 メルカトールは正直にソティラスに毒薬のことについて話をすることにした。

 ソティラスは話を聞き、直ぐにマルクを呼びメルカトールと三人で話をすることにした。

「これがフルール様が飲んだと思われる毒薬です」

 メルカトールは男爵の娘に売った薬をマルクに見せていた。

「これをもらってもいいでしょうか?」

「はい。フルール様の事をよろしくお願いします」


 メルカトールは真っ赤な顔で涙をため、ソティラスとマルクに深く頭を下げた。

「私は命に変えてもフルール様を無事に伯爵領へお送りいたします。どうか、フルール様たちに付き添う事をお許しいただけないでしょうか?」

「私が貴方を止める権利はないが、フルールちゃんたちが貴方の事を信頼しているようだった。私はフルールちゃんたちを信じるよ」

「男爵邸から脱出する時に信用してもらえないと思い、フルール様たちには毒薬の事を話していません。旅の終わりに全てを話そうと思っています」

「その事は貴方におまかせしますよ。私は今の貴方の姿をみて責める気持ちはありません」

「ありがとうございます」

「フルールちゃんを頼みます」

「はい。私の全てをかけてお守りします」


 メルカトールはフルールたちに同行できることを深く感謝し、ソティラスの信頼を裏切らないように自分を鼓舞していた。

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