第35話 ミスティの温室

 ミスティは胸の前で両手を握りしめ、フルールたちを見ながら、

「あなた、女の子ってとても愛らしいのね。このままずっと家にいて欲しいくらいだわ」

 少し興奮気味にソティラスに言っていた。

「そうだな。本当に愛らしいよ」

 ソティラスも大きく頷いていた。


 食事が終わり、ソティラスの息子のデュランとケビンと遊ぶことになった。

 やんちゃ盛りの二人に振り回されたマリエラはヘトヘトになっていた。

 フルールが得意の踊りを披露してみせると、デュランとケビンも一緒に踊っていた。

 楽しい時間は過ぎ、マリエラとフルールは湯浴みを終え、二人の部屋で眠りに就いた。


「あの子たち本当に可愛いわね」

「ああ、だからなんとしてもフルールちゃんの目を治したいんだ」

「あなた、私たちはできるだけのことをしましょう」

 ソティラスは優しいミスティに感謝していた。


 翌朝になり朝食を終えたフルールとマリエラは手を繋ぎ、敷地内にあるミスティ自慢の温室に向かっていた。

 見たこともない花がたくさん咲いていた。

 マリエラは気になった花の形や色などを細かくフルールに伝えていた。

 フルールはマリエラの説明を聞きながら、花を想像し一つ一つ花の香りを楽しんでいた。


「ミスティさん、素敵な温室に招待してくれてありがとうございます」

 フルールは元気な声でミスティに挨拶をした。

「フルールちゃんもマリエラちゃんも楽しんでね」

「はい」

 マリエラはフルールを少し広くなった足場のよいところまで連れて行き、持ってきていたティン・ホイッスルを出し吹きはじめた。

 温室のガラスの窓は所々開いているので、音が籠らずに心地のよい音色になっている。


 フルールは静かに踊り出した。

 ミスティはティーカップを持ったまま立ち上がり、しばらくフルールの踊りに見とれていた。

 ミスティはティーカップに気がつき、ソーサーに戻した。

「フルールちゃん。すごいわ」

 踊りを見て感動したミスティはそれしか言えなかった。


「ありがとうございます」

 さっきまで堂々と踊っていたとは思えないほど、フルールは照れて下を向いてしまった。

「夫の前でも踊ってもらえるかしら」

「はい。踊らせて下さい」

 ミスティの言葉にフルールは、大きく頷き満面の笑みを浮かべた。

「マリエラちゃんの笛も綺麗な音だったわ。練習したのね」

「ありがとうございます。フルール様のお役に立ちたかったので練習しています」

「貴女たちは本当に仲がいいのね」

「はい」

 フルールとマリエラはお互いの顔を見て返事をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る