第45話 三年後

 楽しかった日々は直ぐに過ぎ去り、ペテルとミトラは王都の学生寮に帰って行った。

 ペテルはフルールたちが心配で別れを惜しんだが、あと一年も経たずに卒業を控えているので、無事に卒業し、これからの生活を考えることにした。


 ♢


 月日は流れフルールたちがリュードの街に来て、三年が経とうとしていた。

 フルールは15才、マリエラは17才、ペテルは18才になっていた。


 ペテルはギルドで仕事を請け負い、フルールたちと一緒に暮らすつもりでいたが、ノクスの建設ギルド長の父ジャンが体調を崩し、表向きはジャンの手伝いという事になっているが、実質はペテルがギルドを仕切っていた。

 ペテルはノクスの街から出られなくなっていた。


 フルールとマリエラはティアオ劇団で、舞踊や時には役者として変わりのない生活を送っていた。

 フルールの目は遠くは見えにくいものの、完治といっていいぐらいになっていた。

 フルールたちは伯爵領を中心に公演やお祭りなどに呼ばれることもあり、1ヶ月程リュードを離れることもあるようだった。

 サルタがリュードに来ると劇団の公演で共演することもあった。


 ラーシュ・ドゥラーク男爵は税金の不正が発覚して投獄され、領主交代により長男のポルトが男爵領を引き継いでいる。

 男爵の娘のスランは予定どおり辺境の地に嫁ぎ、男爵領に帰って来ることはなかった。

 ラーシュの傲慢なおこないは貴族の間でも有名だったため、ポルトにはまだ縁談の話がなかった。


 行商の手伝いで頭角を現したシオンは、メルカトールと出会い一緒に仕事をすることになり、各地を転々とし商売に励んでいた。

 メルカトールはフルールたちと仲のよかったシオンに、自分が商売で得た全ての知識を叩き込み豪商へと育てていった。

 近いうちにノクスの街の郊外に屋敷を構え、親や弟妹を呼び寄せる予定でいた。

 シオンはフルールに会いたかった。


 仕事でオールリウス伯爵領に行くことがあっても、タイミングが悪くフルールたちに会えないでいた。

 シオンは手紙のやり取りも数ヶ月に一度になってしまい、フルールに会うことを諦めつつあった。フルールに好きな人がいるかもしれない。

 取引先のご隠居さんの話では、はるか東の島国では、初恋は実らないという定説があると聞いた。

 フルールとは特に約束をしている訳ではない。

 シオンはフルールとのことが不安で悪い方にばかり考えていた。


 行商に行った先で、ティアオ劇団のフルールたちの噂はよく耳にしていた。

 仕事が一段落したら、必ずフルールに会いに行こう。

 メルカトールに相談して少し纏まった休みを取ることにしよう。

 シオンは自分を励ましていた。

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