番外編 ジャンとマリエラ
「失礼します」
「ああ、待っていたよ」
マリエラはジャンの執務室を訪れていた。
「マリエラ、どうしたんだい?ペテルのプロポーズが気に入らなかったのかな?」
「いいえ、そんなことはありません。ご家族のみなさんの前で恥ずかしかったですが、ペテル様のお気持ちは充分に伝わりました。···しかし、本当に私のような者が、ペテル様の妻として務まるのかどうか不安なのです」
「ああ、そんなことか···ではマリエラに一つ聞きたい事があるのだが」
「はい、何でしょうか?」
「ペテルの妻に相応しいのはどういうお嬢さんかね?」
「はい、美人で華やかで、優しくて思いやりがあり、家族を大切にして、お金持ちで後ろ盾のあるお嬢さんです」
「ありがとう。ペテルは幸せ者だな。こんなにもマリエラに慕われているじゃないか。はははは」
「お恥ずかしいです。私にはこれといってペテル様に差上げられるものがございません···身寄りがなくお金持ちでもありません···」
「お金はこれから二人で努力するとして···マリエラ以上にうちの家族のことを思ってくれるお嬢さんはいるかな?」
「それは···でも探せばいらっしゃるかもしれません」
「おいおい、それではいつまで経ってもペテルは結婚出来ないと思うよ」
ジャンは居住いを正した。
マリエラもジャンに見習って居住いを正した。
「これは雇い主からではなく、一人の父親としてお願いする。マリエラのように聡くうちの家族を大事にしてくれる娘はいない。成人したとはいえベテルもまだまだ支えが必要だ。マリエラが側にいて支えてやってくれないだろうか?もし、従者の身分で結婚を断れないというのなら、一度辞めてもらってから、返事をしてくれてかまわない。
仕事や住むところも心配しなくていい。私も家族も貴女にはこの家にずっと居て欲しいと思っている」
「···旦那さま」
マリエラはいつの間にか流れていた涙に気づき、嗚咽が止まらなくなってしまった。
ジャンはおろおろしてハンカチを渡した。
「そんなに泣かないでくれ。それと、旦那様はやめてお義父さんと呼んでくれると嬉しいよ」
「お義父様···ですか?」
「ああ、それでいいよ。おーい誰かペテルを呼んでくれないか?」
居たたまれなくなったジャンは大きな声でペテルを呼ぶように言った。
「お父さん。どういうことですか?」
執務室に駆けつけたペテルは、マリエラをそっと抱き寄せ、ジャンをにらみつけ冷めた声で言った。
「誤解だよ···」
ジャンは肩を落とし小さな声で言った。
嗚咽の止まらないマリエラは必死に両手を振って、ペテルの誤解を解こうとしていた。
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