番外編 ミトラの後悔

 グレンビー商会の三男として生まれた俺は女の子と話す機会などあまりなかった。

 一番上の兄は頭が良く行動力もあり、跡継ぎを名乗るのに相応しい長男だ。

 長男マートは背が高く顔も良いので、取引先などからのたくさんの婚約の申し込みがあり、その中で美人で優しい女性を選んで婚約をしている。

 マートは人当たりがよく取引先との交渉が上手い。


 二番目の兄モーリスは要領が良くてやっぱり頭が良い。

 モーリスは外国語が堪能で他国に出かけ、優良な取引先を見つけては父親と相談している。

 仕入れた物をパラディス王国に持ち帰り、原料であれば加工所に回したり、商品であれば予め調べてある売れそうな地域に輸送したりしている。

 モーリスは先見の明がありとんでもない売上をあげている。


 三男の僕は鳴かず飛ばずで、良くいって普通、まぁ平凡な男だ。

 以前から興味のあった難関の建築専門学校に入ることが出来てやっと人並みといったところだ。

 専門学校の生徒は王都に集まるだけあって、成績優秀な者たちが殆どだ。家を出たというのに劣等感を感じずにはいられなかった。


 中でも北の小さな街のノクスからやって来たペテルという男は、真面目で優秀だ。

 天才の上に努力をするとんでもない奴だった。

 何気なく声をかけると意外と話しやすく、性格は違うのに何故か馬が合った。

 ペテルには三つ下の妹がいるという。

 羨ましくて仕方がなかった。

 家は男ばかりの兄弟だ。


 王都に妹が訪ねて来たときはちゃんと会うことができなかったが、事情がありオールリウス伯爵領にある実家でペテルの妹たちを預かることになった。

 グレンビー商会の両親に手紙を書くと、女の子を預かるのは大歓迎と返事があった。

 聞けばリュード出身の舞姫のサルタとも知り合いらしく、踊りが上手い妹に会うのが楽しみだった。


 ペテルの妹は本当に可愛らしかった。

 事故で顔に傷があるから気にしていると言っていたが、そんなのは気にならない位愛らしい仕草の女の子だった。

 僕は一目合ったときから妹の従者のマリエラに恋をしてしまった。

 背が高くかわいいというよりは控えめで清楚な美人だった。お喋りではなく言葉を選び話している様子に、彼女の頭の良さを感じた。

 マリエラは頭が良いのを自慢しない。


 僕は彼女たちに会うのがとても楽しみだった。

 ペテルからティアオ劇団に入った二人の様子を知らせてくれるように頼まれ、時々劇団に彼女たちを訪ね、たくさん話をするようになった。

 お陰で伯爵領で女の子に人気のスイーツに詳しくなった。


 僕は浮かれていたんだ。

 ペテル宛の手紙に色々書きすぎて、あいつを逆に煽ってしまった。

 まさか···マリエラがペテルの嫁さんになるなんて···衝撃だった。

 マリエラに告白すら出来なかった僕は、今さら後悔しても仕方がない。

 潔く諦めて二人の幸せを祈ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花びらと舞う君に恋して~林檎の樹の下で愛を誓う 絵山 佳子 @takemama16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画