第30話 家族の心配
マリエラはフルールが、失明の危機にあることをジャンの家族に言えないでいた。
フルールからも口止めされていたが、男爵の故意ではなく、事故のような出来事で、騒ぎ立てたくはなかった。建設ギルド長と男爵の間にいさかいが起こると、街の復興や整備などに支障が出るかもしれない。
ジャンは個人的な感情で、仕事を左右するものではないと思っているが、男爵とのしこりは残るだろう。今後、仕事に影響が出るかもしれない。
大人の難しいことはわからないので、マリエラはまず、ペテルの判断を聞くことにしていた。
ペテルには男爵邸でのフルールの身に起きた事はすべて報告していた。
宿屋に来てからフルールは熱を出すこともなくなり、視界はまだ完全に戻らないが、真っ暗だった視界は光を感じ取れる程度になり、ぼんやりだか、マリエラたちの姿がわかるようだった。
数日後ペテルからの返事が届いた。
ペテルは男爵領の隣の伯爵領に身を隠すことを提案してきた。
レムニス・オールリウス伯爵は、芸術や音楽をこよなく愛し、平民であろうと才能のある者には、援助をする貴族であった。
オールリウス伯爵領のリュードの街には、専門学校でできたペテルの親友の実家があるので、身を寄せられるように手配をしてくれるようだった。
既にジャンにも連絡をしているらしく、近いうちにお金や荷物の準備をして、オリビアが宿屋に届けてくれる予定だった。
メルカトールは馬車の準備をしてくれ、リュードの街には行商で立ち寄り、土地勘があるので一緒に行ってくれると言っている。
ペテルはフルールの踊りの才能に目を付けた男爵が、手元に置いておきたくて離さないでいると、ジャンに伝えていた。
ペテルの苦し紛れの嘘だったが、ジャンはそれ以上問い質さなかった。ジャン独自の情報ルートがあるのかもしれない。
ペテルはフルールの失明のことを直接ジャンには伝えていない。
ジャンの家には男爵の見張りがいるかもしれないので、オリビアは細心の注意を払い、ノクスの街を離れる娘に一目だけでも会いたくて、宿屋を訪れていた。
オリビアは友達の家を経由して遠回りをし、時間をかけて宿屋にやって来た。
オリビアの機転で男爵の追手はないようだった。
オリビアはフルールとマリエラを抱きしめ、男爵邸に行くのを反対しなかった事を後悔し涙を流していた。
「お母さんのせいでも、男爵家の人たちのせいでもないわ。それに私、ポルト様と楽団や劇団の人たちに会えて楽しかったの。ねえマリエラ」
「はい。彼らに会えたことはとても良かったです。男爵家の使用人もよい人たちばかりでした」
「貴女という子は···寂しくなるけど、ペテルのお友達の家だもの、きっと大丈夫ね」
フルールの言葉にオリビアは涙を拭い、無理に笑顔を張り付け、再びフルールを抱きしめた。
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