第31話 オールリウス伯爵領

 フルール親子の話を陰ながら聞いていたメルカトールは、胸が張り裂けそうだった。

 フルールが憎くて直接危害を加えた訳ではないが、横暴な男爵に腹が立ち魔が差して、男爵の娘に毒薬を売ってしまったとは言えず、メルカトールはずっと後悔していた。

 そんな自分を面倒見のよいオジサンだと言って慕ってくれる、フルールやマリエラに罪悪感が募るばかりだった。

 二人を安全にリュードの街に送るため、メルカトールは商人の知恵を振り絞っていた。


 メルカトールは計画のため、商売用の自分の荷馬車も使うつもりでいた。

 ジャンからは冒険ギルドで雇った護衛を三名紹介され、作戦を練ることにする。


 オールリウス伯爵領に向かうには、ノクスの街からの西の町デンスと南の町メリディを抜けるルートがある。

 メルカトールはまずデンスの町を目指し、分岐点でメリディの町に入り、オールリウス伯爵領に入るルートを選んでいた。


 急いては事を仕損じる。


 ♢


 西の町デンスには、ジャンとオリビアの幼馴染みで、ノクスの街出身のソティラスが住んでいた。

 オリビアから連絡を受けていたソティラスは、フルールたちの到着を待ちわびていた。

 フルールたちはソティラスの屋敷で一週間程、滞在する予定でいた。


 西の町デンスは有名なワインの産地で、葡萄や果実を育てる農家、ワイナリーや主に瓶などを製造するガラス工房などがあり、ワインに関する仕事が盛んで広大な土地の潤沢な町だった。

 ソティラスはワイナリーのオーナーで、平民とは思えぬ程大きな屋敷に住んでいた。


 ソティラスはノクスの街で生まれ両親と暮らしていたが、母方の両親に跡を継いで欲しいと言われ、十代後半でワイナリーの経営を手伝うことになり、デンスの町に移って行った。

 最初は小さなワイナリーだったが、ソティラスの手腕により、デンスでも有数の大きなワイナリーへと成長させていた。


 幼い頃からオリビアに密かに恋心を抱いていたソティラスは、オリビアの大事な娘フルールを託されることに喜びを感じていた。

 ソティラスはデンスの町出身の葡萄農家の娘と結婚をして息子が二人いる。

 ジャンとオリビアが結婚すると聞いた時は失望して、仕事に没頭する毎日を送っていたが、今は穏やかな性格の妻と子どもに恵まれ幸せな生活を送っている。


 ♢


 メルカトールは三十分前に、護衛を一人荷馬車に乗せデンスの町に向かっていた。

 護衛の男は警戒しているように業とらしく辺りを見回し、ジャンが用意してくれた二頭立ての馬車にフルールとマリエラを乗せ自らも乗り込んだ。

 御者は冒険ギルドで雇ってもらった護衛の一人だった。




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