第33話 ソティラスの屋敷

 男爵の追手は馬車が停まっていた宿屋に引き返していた。

「うーん。あっ、そういえば···馬車の隣に商人の荷馬車があったぞ。···やられた」

 男爵の追手は宿屋の店主に商人のことを聞いていた。

「二頭立ての馬車の隣に停まっていた、商人の荷馬車がどこに行ったかわかるか?」

「ああ、それなら確か···行商でメリディに向かうとか?」

「ああ、ありがとう助かった」

「行くぞ」

 男爵の追手は宿屋の店主が言った通り、メルカトールを追いかけてメリディに馬を走らせた。


 メルカトールは通りから馬車止めが見える宿屋を選び宿泊の手続きをした。

 メリディで二日間ほど商いをし、デンスの町のソティラスの屋敷に向かう予定だった。

「お嬢さんたちは無事に着いただろうか?」

 小さく呟き眠りに就いた。


 早朝、メルカトールは部屋の扉を乱暴に叩く音で目が覚めた。

「はい」

 メルカトールは扉を開けた。

「おまえ。嬢ちゃんたちをどこにやったんだ!」

 男爵の追手は夜通し駆け回ったのか、声は大きいがぐったりした表情だった。

「なんのことかわかりませんが?泊まっているのは私一人ですよ。宿屋の店主に聞いてく下さいな」

 男爵の追手はづかづかと部屋に入って来て、辺りを見渡していた。

「隠れるようなところはないですよ」

「···」

 男爵の追手は「朝からすまなかった」と小さな声で呟き、去って行った。


 男たちが去っていくのを見届け、フルールたちが無事にソティラスの屋敷に着いたのを確信し安心した。

 ジャンが冒険ギルドから雇っていた護衛のうち二人はそのまま伯爵領に入っていた。

 二頭立ての馬車はペテルの友達の家に預け、無事に任務終了となった。


 男爵の追手はフルールたちを見失ってから時間が経ちすぎていたため、諦めて男爵領に引き返すしかなかった。


 ソティラスの屋敷は、ドゥラーク男爵邸と変わらない程、大きな屋敷だった。

 まだぼんやりとしか見えないフルールの手を取り、マリエラはゆっくりと屋敷の中に入って行った。

 ジャンが雇った護衛は屋敷の中には入らず、ワイン樽を積みデンスの町の中心部まで行く別の荷馬車に乗り込み、任務終了となった。


 玄関まで迎えに出ていたソティラスは、フルールたちを見て駆け寄り、

「いらっしゃい。フルールちゃん。君のお父さんとお母さんのお友達だよ」

 と言ってフルールとマリエラの頭を撫でた。

 ソティラスは使用人に目配せし、フルールたちが無事に着いたことを知らせる手紙を直ぐに送るように手配した。


「貴女は子どもの頃のオリビアに似ているね」

 ソティラスは目を細めフルールの顔をじっと見ていた。

 フルールは照れくさそうに下を向いて、マリエラの腕をぎゅっと握っていた。

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