第14話 私では役不足だな(ハウル視点)

 初めてエデルガルトに会った時、天使が来たのかと思った。兄上やアロイスもそう思ったようだ。

 エデルガルトはバウムガルテン王国の王女でうちの国の魔法学校に2年間留学するという。年は私よりひとつ下だ。私は騎士学校に行くつもりだったが、エデルガルトが魔法学校に行くなら私もそうしよう。確か魔法学校には魔法騎士科があったはずだ。


 実のところ学校なんてなんでもいい。私は次男なので、将来は臣籍降下し、国王になる兄上の補佐になるだろう。

 兄上を押し退けて国王になどなる気もない。だからとりあえず騎士科あたりが無難だろうと思っている。あいつは騎士を目指しているんだと周りに思わせれば私を担ぎ上げようなどというややこしい輩も出てこないだろう。

 我が国はお祖父様も父上も側妃も愛妾も持たずに妃はひとりだけだ。子供も皆同じ母なので兄弟仲は良い。跡継ぎは兄上、私とアロイスは兄上の補佐と問題なく決まっている。エデルガルトは兄上の妃候補なのだろう。でもエデルガルトと結婚できるなら兄上を押し退けるのもありかも? 私がよからぬ事を考えていると叔父上が思いもよらぬ事を言い出した。


「お前たち、エデルは私の婚約者だからな。邪な気持ちを持つんじゃないぞ」


はぁ〜? 何言ってるんだ。さっきエデルガルトは7歳って言っていたじゃないか。叔父上は確か……25?6? 無い無い。幼女趣味か? しかも元の婚約者はバウムガルテン王国の女王で、確か暗殺されたと聞いたような気がする。

 婚約者の女王が死んだから、20近くも年下の王女にシフトなんてあり得ないだろう。バウムガルテン王国の国王はよく許したな。


 兄上は早速、叔父上に噛み付いている。兄上もエデルガルトを狙っているようだ。


 母上はエデルガルトに兄上が一目惚れしたみたいだと言っている。私も一目惚れしたのに兄上だけみたいに言われるのは嫌だな。


 叔父上とエデルガルトには何か事情があるらしい。母上は後で説明すると言っていた。なんだろう? 私は気になって食事どころではなかった。


 食事の後私達は父母から、エデルガルトは暗殺された女王が現国王である弟の娘として生まれ変わってきたと聞かされた。

生まれ変わり? 物語の中ではよくあるが実際にそんなことがあるのだろうか? 私は首を捻った。


 確かにエデルガルトは7歳にしては大人っぽい。そう言われてみればそうかもしれない。我が国には留学してもっと魔法を学ぶのと、暗殺した犯人探しに来ているという。犯人に狙われる可能性もあるので護衛騎士や影を大量につけるそうだ。そしてあの女を傍に置くという。


 あの女とはトルデリーゼ・ダウム。ダウム家は表の顔は宰相の家だが、裏の顔は我が国の暗部を取りまとめている家だ。ダウム家は何代か前の王弟が汚れごとを引き受ける為に起こした家で、表は公爵家だ。王族でもある。私達とも交流はあるし、本当のことも知っている。

 トルデリーゼはその家の令嬢。私よりひとつ年上らしいが本当の年はわからない。あの家の者は何か本当かわからないのだ。

 小さい頃から任務を遂行できるように鍛えられるらしい。トルデリーゼはきっと私より強いと思う。同じ女だし、エデルガルトの護衛にはうってつけだと思うが、エデルガルトがあいつに精神拘束魔法をかけられて傀儡されてしまうのではないかと心配なのだ。それくらいトルデリーゼはヤバい。


 私の心配をよそに、ふたりは意気投合してしまった。まさかもう魔法にかけられたのか? エデルガルトは純粋だから、きっとトルデリーゼに騙されているんだ。叔父上は何をしているんだ。婚約者と言うならエデルガルトを守れよ!


 私は見張りのためにふたりの茶会を邪魔することにした。


 しかし、そこでトルデリーゼは思いがけない行動に出た。遮音魔法をかけ、エデルガルトに自分の秘密をカミングアウトしたのだ。

 私達王族は知っているが、別にエデルガルトに知らせる必要はない。仕事がやりにくくなるだろう? それなのになぜだ?


 するとエデルガルトは急にトルデリーゼを抱きしめた。


「リーゼ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」


 私は青天の霹靂だった。トルデリーゼが辛い? まさか。あいつはそんなタマか? なのにトルデリーゼはポロポロと涙を流している。演技か? 一瞬そう思ったがそうでは無いようだ。

 暗部の駒だといつも言って不敵に笑っていたトルデリーゼ。それを本心だと思っていた。私もまだまだだな。

 やはりエデルガルトは生まれ変わっているだけあって大人なんだろう。


 私ではエデルガルトは無理だな。レベルが違う。しかし、叔父上の妃にするのはなんだか嫌だな。やっぱり兄上か。兄上と結婚して我が国の王妃になるのがベストかもしれない。私はトルデリーゼとともに二人を支える。


 えっ? トルデリーゼとともに? あれ? どうしたんだろう? トルデリーゼのこと良く思ってなかったのに。


 まるで魔法にかかったみたいだ。


 ヤバい魔法を使うのはトルデリーゼではなきエデルガルトだとその時思った。それなら王妃に相応しい。可愛いだけじゃないのだ。


 仕方がない。兄上の為に頑張るか。


 叔父上? 兄上次第だな。兄上を押し退けて叔父上が国王になる日が来るとしたならエデルガルトは叔父上の妃になっているかもしれない。


 まぁ、とにかくそれより今は犯人を見つけて、エデルガルトが安心できるようにしなくてはならない。私も暗部で鍛えてもらおうかな?

隣に座るトルデリーゼをふと見ると、首を左右に振り「あんたには無理よ」と言っているようだ。

 ヤベ、こいつ人の心が読めるんだ。気をつけよう。


 そんなことを思いながら私は菓子を手に取り頬張った。

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