第32話 真相1(ローザリア視点・アーベル視点)

◆◆ ◇(ローザリア視点)


 アーベルは義姉を探そうとはしなかった。


「メアリーも一緒に消えているのなら、ライが連れて行ったのだろう。姉上は亡くなったと民に発表しよう」


 あの時、義姉がいなくなり、慌てふためく私達を尻目にアーベルは落ち着いていた。本来なら1番慌てるはずなのに。昨日義姉を葬ろうと言い出した時からなんだか様子がおかしい。


 アーベルってこんな人じゃなかったわ。どうしたのかしら?


「ねぇ、アーベル。なんで突然お義姉様を葬るなんて言ったの? お義姉様のことを誰よりも頼りにしていたのはあなたじゃない?」

「仕方ないんだ」


 仕方ない?


 アーベルは虚な目をしている。


 おかしい。絶対におかしい。私はアーベルの様子を観察することにした。


 いつもはおしゃべりが好きな陽気な人なのに、言葉数が少ない。私や子供達とも距離を置いているようだ。


 私は自室に下がってから、侍女のハンナに声をかけた。


「ねぇ、ハンナ、陛下は何だかへんしゃない?」

「変ですね。私はアーベル様が生まれた時から知っていますが、まるで別人のようです」

「まさか? 魔法をかけられていたりして?」

「でも、エアハルト様があぁなった時に無効化の魔道具を身につけるようにしているはずです」


 そうよね。そのはずだわ。でも魔道具を離したら?


 私の頭の中に不安が渦巻いた。


 最近、アーベルにはますますエジンバラがくっついている。

 もう、義姉もライムント様もいないし、アーベルはエジンバラに頼るしかないのかしら?  でも、エジンバラは忠臣だからアーベルのイエスマンなのよね。アーベルに苦言を呈することはない。


 私がしっかりしないといけないのだけれど、私は義姉ほど優秀じゃない。それに女王と王妃では権限も違う。

 困ったものね。こんな時頼りになる人がいないわ。


 なんとかライムント様と連絡が取れないかしらと私は頭を抱えた。


** *


「ねぇ、アーベル、本当にエデルお義姉様を探さなくていいの?」


私が寝室でアーベルに問うと、アーベルは渋い顔をしている。


「いいんだ。もう姉上は死んだんだ」


 そう言いながら、枕元にある紙に“私を信じてもう少し待ってほしい”と書いて、すぐに握り潰した。


 まさか、見張られているの? 話声も聞かれているの?


 私は魔法もテレパシーは使えないけど、アーベルに目で疑問を伝えた。

 アーベルは頷く。なるほどアーベルは義姉を逃したのね。それにしても犯人は誰なの?


 アーベルを脅しているの? 


◇◇ ◆(アーベル視点)


 悪意ではなく善意だった。いや、あれは善意ではないだろう。

 私の側近のエジンバラ・ロッソは物心つく頃から私の傍にいた。エジンバラの母は私の乳母、父は私の護衛騎士だった。ロッソ伯爵家は常に私に寄り添ってくれていた。


 私が国王になることを熱望していたとは全く気が付かなかった。


 ミアはロッソ伯爵家の遠縁の娘だとライムントが調べてきた時、私は驚いた。兄上に魅了の魔法をかけたとミアが捕まった時、エジンバラはミアのことは知らないようだったので、まさか親戚だとは。

 ミアが牢から消えたあと、ライムントは魔法で色々調べた。

 ライムントの調べでは、ミアを学園に編入させたのはロッソ伯爵家の者だったらしい。直接ミアを連れて行った者を捕らえ自白剤で吐かせたら、ロッソ伯爵家に金をもらったとこたえたそうだ。自白剤は絶対正しい。


 私はライムントにとある魔道具を持たされた。それは私とエジンバラやロッソ家関係の者との会話や映像がライムントにすぐ伝わり、録音や録画もできるという。

 そして、エジンバラにカマをかけろと言われた。


 姉は全く目覚めない。私は仕方なく国王の仕事をするようになり、エジンバラに何度もカマをかけてみたが、エジンバラもロッソ家の誰もがなかなかしっぽを出さない。

 それどころか、皆好意的で私やローザリア、子供達のことも気にかけてくれている。


 自白剤もたまには間違うのかもしれない。さもなくば、ロッソ家を陥れようとする者がロッソ家を名乗ったのか?


 そんなある日、姉上が急に意識を戻した。

私達は大喜びだった。

 みんなの気が緩んだ時、ミアがまた現れて姉上を襲った。

 

 そしてその時、全く予期していなかった、トルデリーゼ・ダウムという令嬢が現れ、姉上を助けミアを捕らえた。

 その時、ダウム嬢から不思議な話を聞いた。


 そして私達は秘密を共有した。姉上が目覚めたことは3人以外誰も知らない。私とライムントの計画にトルデリーゼも引き入れた。姉上はライムントが魔法で再び眠らせた。周りの者達には姉上はまだ目覚めていないということにしたのだ。


 あの夜、私は執務中にエジンバラが入れてくれたお茶を飲み、意識を失った。そして、その時、身につけていた精神拘束魔法無効化の魔道具を外された。そしてエジンバラは私を洗脳した。姉上を葬れと。


 私は少し前、ライムントにエジンバラの様子がなんだか気になると相談した。その時にライムントから身につけろと渡されていた魔道具のおかげで実は全く洗脳されていなかったが、洗脳されているふりをした。

 

 そして皆の前で姉上を葬ると言った。


 もちろんライムントとは打ち合わせ済みだ。ライムントの魔道具を通して話ができる。それは私とライムントにしか聞こえないようになっているらしく、ライムントの魔法の凄さには驚くばかりだった。


 ローザリアには悪いが敵を欺くにはまず味方からだ。

 私はエジンバラに見張られていたし、ローザリアには知らせない方がいいとライムントと決めた。


 あとは、どうやってエジンバラのしっぽを掴むかだけだ。


 私に禁忌の精神拘束魔法をかけ、姉上を亡き者にしようとしたのは何故なんだ。

 その前にミアを使って兄上を失脚させた、そして姉上にも危害を加えた。ロッソ伯爵家は姉上や兄上にも好意的だったはずなのに……。


 私がモタモタしていると、業を煮やしたライムントが罠を張った。

 ライムントが幻影魔法で私に化け、エジンバラに詰め寄ったのだ。


「エジンバラ、私は本当はお前の精神拘束魔法になどかかってはいなかったのだ。お前の魔法など私には効かない。お前は一体何がしたくて、兄上や姉上を排除したのだ。私を傀儡してこの国を我が物にしたかったのか?」


 エジンバラは青い顔をしながら抵抗する。


「アーベル様、何をおっしゃっておられるのですか。私はそんなことをするはずがありません。何かの間違いです」

「ミアを使ったのもロッソの家の者だとわかっている。あの時ミアを逃し、また、再び姉上を殺害させようしたのもお前なのだろう? お前なら牢の鍵を外し、ミアを逃すことも可能だからな」


 ライムントはまるで私のようだ。やはり魔法は凄くて怖い。


「知りません。私は何も知りません」


 エジンバラは必死で否定している。


「素直に口をわらないのであれば、自白剤でしゃべってもらおうか」


 自白剤はひどい副作用がある。正直に全てを話すことはできるが、代償も大きい。


 エジンバラに自白剤を飲まそうとライムントが一歩踏み出した時、扉が開き、エジンバラの父と母が入ってきた。


「アーベル様、息子をお許しください。全ては私が言い出し始まったことなのです」

「いや、全ての責任は家長である私にあります」


 父母達がエジンバラを庇う。


 どういうことなのだろう?


 私は私に化けたライムントがどう出るか、固唾を飲み見守るしかなかった。

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