第33話 真相2(ライムント視点)


 私は目覚めたエデルガルトに全てを話した。


 10年の眠りから目覚めたあと、ミアに襲われたエデルガルトを再び眠らせたのは私だった。

 全てをエデルガルトが眠っているうちに片付けてしまいたかったからだ。


 しかし、まさかトルデリーゼ・ダウムが現れ、違う次元の話をするとは思わなかった。

 ダウム家のことはよく知っている。我がクラウベルク王国の暗部だ。私は一応王族なので、トルデリーゼの呪いのの話は聞いていた。そして、トルデリーゼの魔力の凄さも聞いていた。 彼女の話を全て信じるのはどうかと思うが、否定するのも違う気がした。


 私が認識しているトルデリーゼは確かに9歳の子供の姿だったのに、目の前の彼女は30歳前後の大人の姿だった。

 神が時の歪みを直したせいで、呪いが解けたという。そんなことがあるのかもしれない。

 私達はトルデリーゼがエデルガルトを思う気持ちが本物だとわかったので彼女を仲間に入れた。


 アーベルにエジンバラの精神拘束魔法にかかっているように見せかけさせ、エジンバラの言うとおりにさせた。

 エデルガルトを葬ると言わせて、私達はクラウベルク王国に移動魔法で飛んだ。逃げたと思わせるためだ。

 エジンバラ達はエデルガルトが消えればとりあえずそれで満足だろう。

 あとはしっぽを出してくれればなぁ。


 私はアーベルに渡した魔道具を介し、念話で話をする。念話なら誰にも聞かれないので安心だ。


『アーベル、私が幻影魔法でアーベルになるよ。そしてエジンバラを煽ってみる』

『そうだね。私だとうまく煽れていない。まだなんでエジンバラやロッソ夫妻が兄上を陥れよう、姉上を亡き者にしようとしたのかわからないんだ』

『善意なのか、悪意なのかだな。まぁどちらにしてもエデルに危害を加えたのは許せない。私がお前に化ける』

『頼むよ』


 私はアーベルに化け、エジンバラに近づいた。


「エジンバラ、私は本当はお前の精神拘束魔法になどかかってはいなかったのだ。お前の魔法など私には効かない。お前は一体何がしたくて、兄上や姉上を排除したのだ。私を傀儡してこの国を我が物にしたかったのか?」


 エジンバラは動揺していた。一気に締め上げるか。


「アーベル様、何をおっしゃっておられるのですか。私はそんなことをするはずがありません。何かの間違いです」

「ミアを使ったのもロッソの家の者だとわかっている。あの時ミアを逃し、また、再び姉上を殺害させようしたのもお前なのだろう? お前なら牢の鍵を外し、ミアを逃すことも可能だからな」

「知りません。私は何も知りません」


 エジンバラは震え出した。もう一息だ。


「素直に口をわらないのであれば、自白剤でしゃべってもらおうか」


 できれば自白剤は飲ませたくない。副作用がひどいからだ。しかし、これ以上しらを切るなら仕方ない。


 私はチラッと部屋の隅にいるアーベルを見た。アーベルは幻影魔法でエジンバラからは見えなくなっている。アーベルは苦虫を噛み潰したような顔で私を見返した。


 突然扉が開き中年の男女が入ってきた。メイド服と騎士服か。


『あれはエジンバラの両親です』


 念話で話すアーベルの声が頭の中に聞こえた。


「アーベル様、息子をお許しください。全ては私が言い出し始まったことなのです」

「いや、全ての責任は家長である私にあります」


 子供を責めると親が出てきたか。


「アーベル様を国王にすることが私達ロッソ家の者の悲願でした。嫡男というだけで、次の国王がエアハルト様だなんて許せませんでした」


 母親が涙ながらに話し出した。


「エアハルト様は国王の器ではありません。それにローザリア様はアーベル様を慕っておられた。だからエアハルト様に失脚してもらい、アーベル様はローザリア様と結ばれ、国王になってもらいたいと私達ロッソ家が画策したしました」


 父親がとつとつと話す。


「わかった。それなら何故姉上を殺害しようとしたのだ」


 エデルガルトは関係ないはずだ。私は怒りが込み上げてきた。エジンバラが母親を遮り、前に出た。


「私達の計画はあれで終わりのはずでした。だが、ミアが勝手に動き出したのです。私達ロッソ家は精神拘束魔法が使えました。しかし、大昔に精神拘束魔法を使った事件が起こり、その魔法は禁忌になり、我が家門も全て封印していたのですが、私達がミアの封印を解き魅了を使えるようにしてしまったせいで、他の者達の封印も緩んでしまったのです。ミアは魅了を使い、牢から逃げました。もちろんミアの父親も封印がゆるみ、精神拘束魔法が使えるようになりました。ミアの父親は本当にミアを王太子妃にして、エアハルト様を傀儡し、自分達の意のままに動かそうとしていたのです」

「それと姉上がどう関係しているのだ」


 私は冷静になろうとしたが、難しかった。


「逆恨みです。ミアはエデルガルト様のことを自分が女王になりたいがためにエアハルト様を失脚させ、国王陛下を退位させたのだと、そして国王代理だと言いながら議会まで味方につけ、女王になったのが許せないと言っていました。それは違う。アーベル様がそうしたと何度も言って聞かせたのですが、聞く耳を持たずでした」


 母親が項垂れているエジンバラの肩に手を置いた。


「ミアとその父親は暴走し出しました。私達のしたことを民達にバラされたくなければ自分達の言うことを聞けと言ってきたのです。アーベル様を精神拘束魔法で傀儡してこの国を自分達のものにしようと。ミアは再びエデルガルト様を襲いました。まさか捕らえられるとは夢にも思っていなかったのでしょう」


 私は念話でアーベルにミアの家族を捕らえるように言った。

 アーベルはすぐに部屋を出た。


「エデルガルト様はクラウベルク王国に嫁いで幸せになられるはずでした。まさか、アーベル様が引き止められるとは。私にもっと力があれば、側近として頼りにしてもらえていれば、エデルガルト様に負担をかけることもなかったのに。全ては私の力不足です」


 エジンバラは膝をついた。


 いや、アーベルが姉に頼り過ぎたんだ。エデルガルトが出来すぎた。そもそも、エアハルトがもっと、しっかりしていれば……。


 私はため息をつき、幻影魔法を解いた。3人は私の姿を見て、目を見開いている。


「アーベルはミアの父親を捕らえに行ったよ。あんた達の善意が悪意になったな。あんたは前王妃とも近かった。こんな馬鹿げた計画を実行する前に前王妃に話をしてみたら良かったんじゃないのか? ミアを使わず、平和的に解決できる方法はいくらでもあったはずだ。あんた達の気持ちにミアとその父親はつけこんだ。全く巻き込まれたエデルと私は大迷惑だ」

「ラ、ライムント様……」


 エジンバラは手で顔を覆っている。


「3人を捕らえてくれ。ロッソ家にも人をやってくれ。ローザリア、それでいいか?」


 私は扉の傍にいるローザリアを見た。


「そうですわね。とりあえずそれしか仕方ありませんわね」


 ローザリアは厳しい表情だ。


「エジンバラ、私はあなたを信じていました。残念です」

「妃殿下……」


 エジンバラは泣き崩れている。


 結局この親子はミアと父親の男爵にいいようにされていたのかもしれないな。

 ミアの封印を解いたせいで綻びが出て、ロッソ一族の中には精神拘束魔法を使える者が出てきてしまった。ミアの父親も力が戻り欲が出てしまったのだな。

 全くエデルガルトも私ももらい事故みたいなものだ。私は再び大きなため息をついた。

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