第8話 クラウベルク王国で旧友と再会しました

 私達が到着したのはクラウベルク王国の王宮内、王家のプライベートゾーンにあるギルベルト殿下のサロンだった。


 到着の時間を知らせていたので出迎えるために待っていてくれたらしい。私の記憶より、少し歳をとった感じのギルベルト殿下とあの頃より綺麗になったベルミーナが微笑んでいる。


 ギルベルト殿下が膝を降り両手を広げている。


「ライ、エデル、おかえり。待っていたよ」

「エデル、本当にエデルなの? あなたが暗殺されたと聞いた時は涙が止まらなかったわ。こうやってまた生まれ変わってここに来てくれたなんて夢みたい」


 ベルミーナはギルベルト殿下を押しのけて私を抱きしめた。


「ベル。ありがとう。また会えて嬉しいわ」

「エデルと同じ話し方ね。姿は小さいエデルだけど中身はあのエデルなのね」


 ベルミーナは興奮して私の顔を触りまくる。


「ベル、それくらいにしてあげなさい。エデルは中身はあのエデルだが、器はまだ子供なんだ。うちのファビアンやハウルより年下なんだよ」


 ギルベルト殿下はベルミーナを見てクスクスと笑いながら嗜めている。


「私の戴冠式の時に一緒に来ていた子?」

「あぁ、あれは嫡男のファビアン。今は10歳だ。あの下にもうひとり男児がいるハウルは8歳だ。同じ年頃だけど同じ年頃じゃない。変な感じだな」


 確かに変な感じだ。


「ねぇ、ギル、ファビアンとエデルを結婚させるのはどうかしら? どちらも王族だし、問題ないわよね?」


 調子に乗ったベルミーナはややこしいことを言いだした。


「義姉上、エデルは私の婚約者です。ファビアンには渡しません」


 ライムントが私からベルミーナを引き剥がし、私を抱っこした。それを見たギルベルト殿下はお腹を抱えて笑っている。


「ライ、お前達はいくつ離れているのだ? 20歳も年下の妻なんてあり得ないだろう?」


 少し意地悪におどけた口調だ。


「18です! あり得ます。私は魔力が強いので25歳を超えると歳をとるのが普通の人より4倍は遅くなります。なので今は見た目は大人と子供ですが、そのうち追いつきます。エデルは誰にも渡しません」


 揶揄われていると言うのに、ライムントはおとなげないわ。


「エデル、部屋に案内するわ。その後ふたりでお茶しましょうね」


 ベルミーナは楽しそうにしている。


「義姉上、部屋になら私が案内します」


 ライムントも負けじと前に出る。


「ライは今までずっと一緒だったのだから、今日はベルに譲ってやってくれよ。ベルは本当にエデルに会いたがっていたんだからな」


 ギルベルト様にそう言われてはライムントも引くしかない。


「わかりました。今日は義姉上に譲ります。でも、エデルは私の婚約者です。それは忘れないでくださいね」

「はいはい。わかったわ。じゃあエデル行きましょうね」


 ベルミーナは私の手を取り、部屋の外に出た。


 王宮のプライベートゾーンなのに部屋の外には護衛騎士が待機している。どうせ影もいっぱいいるのだろう。


「エデルの部屋は私の部屋の隣よ。あえてライの部屋と離しちゃったわ」


 ベルミーナはふふふと笑う。


「私ね、娘が欲しかったのだけれど、生まれたのは息子ばっかりでしょう。だからエデルがこの国にいる間は溺愛しちゃうわよ」


 親友からの溺愛か〜。なんだか変な感じだわね。


 案内された部屋は落ち着いた感じでベッドルームとサロンの二間続きの部屋だった。浴室やお手洗いもあるし、侍女や護衛の部屋も隣にある。


 今回の留学には侍女のメアリー、護衛騎士のトーマスとジェフリーも一緒に来ているので側にいてもらえると安心だし何かと便利だ。


「こんな良いお部屋をありがとう。すごく嬉しいわ」

「良かった。荷物はさっきからメアリー達が片付けてくれていたから、もうクローゼットに入っているわ。メアリーともまた会えて本当に嬉しいわ」

「そうね。前に留学していた時もメアリーが一緒だったものね」


 ベルミーナは私達を本当に歓迎してくれているようだ。



 私は少し楽なドレスに着替えてから、ベルミーナの部屋のサロンでお茶をすることになった。ベルミーナは沢山お菓子を用意してくれている。


「身体は7歳だからお菓子がいいかと思って用意したのだけれど、飲みものお茶でいいかしら? 果実水もあるけど……」

「ありがとう。お茶で大丈夫よ」


 侍女がお茶をいれてくれた。ベルミーナの侍女は実家からついてきている。留学時代も何度も会っているので良く知っているカレンだ。もちろんメアリーとも仲が良い。


 私の事情もわかっているのでスムーズだ。本来なら7歳の子供が王太子妃とタメ口で話すなんてあり得ない。外では気をつけないといけない。


「でも、本当に生まれ変わったのね。しかも前の記憶が全部あるなんて凄いわね。亡くなる前に神様にお願いとかしたの?」


 ベルミーナは不思議そうに私に聞く。


「うん、生き返らせろとは言ったんだけどね。まさか生まれ変わるとはね。しかもアーベルとローザの娘よ」


 私はため息をついた。


 ベルミーナはマカロンを頬張りクスッと笑う。


「神様も心配だったんじゃない? アーベル殿下はなんだか頼りないじゃない。ライはあなたがいなくなってから生きる屍みたいになっちゃったしね」

「生まれ変わったとわかった時はライが魔法で生まれ変わらせたのかと思ったんだけど、ライに聞いたら違うって。絶望してそれどころじゃなかったそうよ」

「もう、ほんとに男はだめね」


 二つ目のマカロンを頬張り、ベルミーナは大きなため息をついた。


 以前の私は魔法は使えることは使えたがそれほど魔力は強くなかった。我が国は貴族が生活魔法を使うことができるくらいでクラウベルク王国程魔法が発達していない。それゆえに強い魔力を持っている者もあまりいなかった。

 ところが生まれ変わった私は色々な属性の魔法を使うことができる。魔力もかなりの量らしい。ライムントが鑑定の魔法で私を鑑定し、それがわかった。


 その事は私とライムントだけの秘密にしている。


 クラウベルク王国で新しい魔法を学ぶために留学したが、もうひとつの目的は私を殺害した黒幕探しでもある。私を亡き者にして喜ぶのはライムントに懸想していた令嬢の可能性もある。

 なかなか我が国で見つからないので目先を変えてみることにした。まぁ、黒幕にぶち当たらなくとも、楽しい留学生活がおくれればそれはそれでいいのではないかと思う。


 少しは今のエデルガルトの生活も楽しみたい。私はまだ7歳なのだ。7歳の生活は自国にいてはなかなかできない。


 ここでも微妙だが、まだ自国よりはマシだろう。


「ねぇ、エデル、同世代の友達はいるの?」


 ベルミーナは三つ目のマカロンを頬張ったらあと、私に聞いた。


「いないわ。自国では執務が忙しくて遊ぶ暇なんかないもの。それに世間の7歳と話が合わないと思うわ」

「なんだか勿体無いわね。せっかく生まれ変わったのだし、交流してみては? 今度息子達と同世代の子供達を集めてお茶会をするの。エデルも是非出てよ」

「お妃様候補を集めるの?」

「そう言うわけでもないんだけどね」


 なにやら含みのある言い方だ。ベルミーナは王子ばかり3人いる。今は妊娠中だが、魔法で鑑定したらまた王子だと言われたようだ。娘が欲しかったベルミーナは、早く息子達の婚約者を決めて可愛がりたかったようだが、私が来たので、可愛がるターゲットを私にしたという。だから婚約者はまだ決めなくてもよくなったらしい。


「そうね。参加してみようかな。同世代の子供達と話してみるのも面白そうだわね」

「きっと何か閃いちゃうかも? ふふふ。その前にうちの息子達にも会ってね。あとで紹介するわ。ライからうちの息子に乗り換えてもいいわよ」


 いたずらっ子のような口調でウインクをした。

ライムントが聞いたら怒るだろうなと思いながらお茶をひと口飲んだ。

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