第7話 出発

 パーティーは特に何もなくお開きとなった。貴族達の話題は元女王の生まれ変わりの私と弟のアルフレッドのどちらを次期国王にするかで持ちきりだった。

 近い将来、エデルガルト派とアルフレッド派に二分する恐れもある。早いうちにアルフレッドを王太子にしなくてはならない。


 今世ではもう、女王になどなりたくない。私は私を狙う黒幕を捕らえ、あとはのんびり暮らしたいのだ。


 そもそも黒幕はあの時に私を殺害したことで何がメリットがあったのだろうか? それが気になった。私が消えて得した人? 特に思いつかない。強いて言うならアーベルとローザリアくらいだろうか? しかし、ふたりとも国王、王妃というポジションは不本意らしいので違うようだ。


「エデル、何難しい顔をしているんだ?」


 ライムントが私の頭に手を置いた。


「のうにゃい犯人さがし中でしゅ」

「また犯人探しか。確かにそれも大事だけど、大人に任せたらどうだ? エデルはまだ無理だろう?」


 確かに3歳児の私で無理だろう。しかし大人も不甲斐ない。私が殺されてから4年。捕まったのは実行犯のミアだけだ。


 ミアか……。

そう言えばミアはどうなったのだろう? すっかり忘れていたわ。


 私はライムントの顔を見た。


「しょの大人が頼りになりゃないのよ。ねぇ、しょーいえば、ミアは死罪だったよね?」

「ミア? ミアは殺されたよ」

「だから死罪?」

「いや、牢で殺害されていた」

「牢で? 口封じ?」

「多分な。牢は凄いセキュリティだったのだがな。だから犯人は分からずじまいだ」


 口封じされたのね。ミアならすぐに口を割りそうだもの。


「黒幕の目星は?」


 私の問いにライムントは難しい顔になった。


「いなんだよ。エデルが死んで得した者が誰も」

「確かにそうね。わたくちも考えたけどょ、いにゃいよね」


 やはりライムントと同じことを考えていたようだ。ライムントは眉根を寄せている。


「魔導士がからんでいる。あのセキュリティをかい潜れるのは魔導士くらいだろう。しかもかなりチカラのある者だろうな」

「魔導士?」


 まさか、クラウベルク王国の誰かだろうか?


「あれから兄上にもチカラを借りてクラウベルクも調べている。エデルの留学中に恨みを持たれたのかもしれない。エデル心当たりはないか?」


 心当たりはないかと言われても私がクラウベルク王国に留学していたのはまだ王女の頃で10年くらい前だ。

 2年間クラウベルク王国の王立魔法学校で魔法を学んだ。その時に飛び級で入院してきたライムントと知り合った。

 4歳年下だけどしっかりしているし、魔法も凄くて全く年齢差は感じなかった。恋に落ちた私達はすぐに結婚の約束をした。

 私とライムントの関係はオープンにしていたので魔法学校のみんなは知っていたはず。私を殺してライムントの恋人になりたい人がいたのかしら? 


「ねぇ、ライ、あのこりょ、あなたに懸想していちゃ、女の人っちぇ、いたかちら?」


 ライムントは私の問いかけに首を振った。


「いないよ。私は魔法馬鹿だし、王太子じゃない。兄ならともかく結婚してもたいしてメリットはないよ。私みたいな変わり者を好きになってくれたのはエデルだけだよ」


 ライムントは見た目はまぁまぁカッコいいのだけれど、魔法馬鹿すぎて女子が喜ぶようなことは何もできない。ぶっきらぼうだし、甘い言葉なんてあり得ない。だからモテていたイメージはない。

 ライムントの兄で王太子のギルベルト殿下の方はイケメンでスマートでザ・王子様って感じの人だったからめちゃくちゃモテていた。私と同じ年だし、ちょっだけ結婚の話もあったけど、ライムントがぶち壊した。


「しょうね。『エデルは私のだ』ってわたくちとギルベルト様の縁談をぶちこわちたもんね。責任とってもらうわ」


 私はクスクス笑った。ライムントも笑っていたが突然真顔になった。


「でもいいのか? 今の私とエデルは年が離れている。エデルにとって私はおっさんじゃないのか?」

「年上だったのにぃ、いきなりものすごく年下になっちゃったね。頭の中は前のまんまだかりゃやっぱりライがいい。それに魔力が多い人はとしをとらにゃいからライがいいよ」


 同世代なんて絶対に無理だわ。きっと話があわない。


 黒幕が誰だかわからないまま月日は流れ私は7歳になった。


 5歳の弟、アルフレッドと3歳の弟、リュディガーがいるふたりには私がしっかり国王教育をしている。


「国王なんて嫌だな」とアルフレッドは言っているので、リュディガーがなればいいと思う。でもまだ5歳どうなるかはわからない。


「ねぇ、お父様、ギルベルト殿下からクラウベルクの魔法学校に留学しないかとお手紙をもらったの。私は行きたいのだけれどダメかしら?」


 私は父に打診してみた。


「う〜ん、出来れば行ってほしくないなぁ。エデルがいなくなると私の仕事が忙しくな……」


 父は母に拳骨をもらっている。


「私はいいと思うわ。エデルはもっと自由に好きなことをすればいいの。アーベル様もいつまでもエデルに頼らないでしっかりしてくださいませ」


 母はいつまで経っても頼りなさの残る父のお尻を叩く。


「ライはどうするんだ? エデルはいなくなるし、ライまでいなくなったら困る」

「あなたはまたそんなことをおっしゃって!」


 父は母に耳を引っ張られている。


「ライは一緒に行ってもらうわ。中身はおばさんだけど身体はこどもだものライが一緒なら安心でしょ? クラウベルク王国の魔法はかなり進化しているから学びたいの」


 ライは最近クラウベルク王国の兄から呼び出され、移動魔法でちょこちょこ顔は出しているようだ。

 ギルベルト殿下は私の生まれ変わりが面白いらしく、魔法で生まれ変わることができるかの研究も始めたらしい。やはり魔法大国の王太子は変わっている。

 王太子妃のベルミーナ様は私が前のエデルガルトだった時にクラウベルク王国に留学していた頃、同じ魔法学校で学んでいた友達だ。私が生まれ変わったと知り、会いたがってくれていて、今回の留学もとても楽しみにしてくれている。

 私は今回も前回同様お城の中に部屋を借り、そこで生活することになる。


 まだ7歳なのだが、飛び級で入学できるそうだ。魔法学校史上最年少入学らしい。


「エデル、帰ってくるよな? クラウベルクに行ったまま帰ってこないなんてことはないよな?」


 父が寂しそうに声をあげる。


「当たり前ですわ。移動魔法もあるし、ちょこちょこ戻ってきます」

「ライ、絶対暗殺されないように守ってくれよ。前と同じなんて絶対嫌だからな」


 父はライムントを睨みつけている。ライムントは父の肩をぽんと叩いた。


「任せてくれ。エデルは必ず守る。今回は影も沢山連れていく。結界魔法もかける。だから大丈夫だ」


 黒幕はクラウベルク人だという説もある。父は心配なのだろう。


「お父様、大丈夫ですわ。今回の私はそう簡単には亡くなりません。あの頃の私より強くなりましたわ。それに警護も万全です。ご心配には及びません」

「そうよ、エデルは魔法も武術も毒に対する耐性もあなたより強いから、大丈夫ですわ」


 母のローザリアはクスクス笑う。確かに私は7歳で父を超えてしまった。


 旅立ちの日が来た。


「姉様、身体に気をつけてね」

「姉様、おてがみかくね」


 弟達は淋しそうだ。


「エデル、移動魔法でちょこちょこ戻ってきてね。待ってるわ」


 母は私をぎゅっと抱きしめる。


「エデル〜、淋しいよ〜」


 父は号泣だ。国王なのにちょっと恥ずかしい。


「じゃあ、行ってきます」

「エデルのことは私がしっかり守ります」


 ライムントは私の手を取り移動魔法の呪文を唱え始めた。


 視界が歪む。身体が粒子になる。


 どれくらい経ったのだろう? 目を開くとそこには少し歳をとったギルベルト殿下とベルミーナ様がいた。


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