第6話 3歳になりました
今日は私の3歳の誕生日パーティーだ。1歳の時よりも今回は護衛騎士や魔導士がやたらたくさんいる。もちろん影もわんさかいるようだ。
今日は私は白いフリルがひらひらしていて、生地が柔らかく、スカートがふわふわしたドレスを着せられている。スカートには白い花のモチーフがたくさんついている。軽い生地でできたモチーフなので重くはない。
髪も結構伸びてきたので可愛くハーフアップに結ってもらい、ドレスのモチーフと同じ白い花の髪飾りをつけられた。
披露パーティーの時の謎のドレスには小さな毒針が仕込まれていた。犯人は幻影魔法が使える奴だ。この2年の間に幻影魔法や悪意のある魔法を察知できるような魔法をライムントが作り上げた。2度と私を失わないと執念すら感じる。
―コンコン
扉を叩く音がする。
「はい」
侍女が返事をする。
扉が開き、顔を出したのはライムントだった。
「用意ができたようだね。今日のエデルは格別に可愛いな。不埒な奴らの手に落ちないようにこの魔道具をつけておこう」
ライムントはポケットから花の形に石を並べたネックレスを取り出して私の首につけた。これは、前のように何かあってはいけないというライムントの気合いを感じる。
私につけたネックレス型の魔道具は邪な心を持った奴が私に触れるとかなり強力な電気ショックを受けるらしい。そんな人に遭遇したくはないが、どうな風になるかちょっと見てみたい気もする。
「まぁ、今度は悪人にはエデルに指一本触れさせるつもりはないがな」
ライムントは気合い十分だ。
さすがに3歳ともなると拙くはあるが言葉を話すことができる。3歳児の話し方で大人の内容を話す私はかなりへんてこりんだ。
「ライ、ぱーちぃの警護は大丈夫? おじいちゃまのまわりは特に注意ちてね」
「あぁ、先王には幻影魔法に惑わされない眼鏡をかけてもらっている。それに影をはべらして、厄介な奴は近づけないようにしているよ。王太后様も目を光らせている。エデルはずっと私が抱っこいている予定だ」
「でも、また、犯人はわたくちに接触しようとしてくるかも?」
私は普段は堅い守りの中にいる。ライムントによって何重にも結界魔法がかけられた場所にいる。私が幼児のうちは危ないのでこうしておくらしい。私は王宮の中の安心安全な場所でのんびり幼児ライフを送っている。
3歳児ではあるけれど、女王エデルガルトの記憶や知識はそのままあるので、勉強なども特にしなくてもいいのだ。でも魔法は前回はそこまで学んではいないので、今回は色々使えるようになりたい。
そうそう、今、私の傍にはあの時の誘拐犯のふたりがいる。この2年の間、ふたりはライムントに鍛えられいっぱしの護衛になった。そして魔法で姿を変え、名前もトーマスとジェフリーに変えた。
「まぁ、トーマスとジェフリーもいるしな」
「しょね。トーマチュもジェフジーも強くなったもんね」
「あぁ、それにあいつらはあいつらに直接指示した奴のことは覚えている」
「来たらわかるといいわにぇ」
私の幼児言葉に普通に対応しているライムントはなかなか大した奴だと思う。
3歳になるまでにも私は何度か命を狙われた。その都度、優秀な護衛騎士や魔導士、影達が助けてくれている。犯人はあの時と同じだろう。あの時もこれまでも実行犯は捕まっているが黒幕には辿り着けていない。
今日のパーティーは私の3歳のパーティーと弟の1歳のパーティーも兼ねている。去年生まれた弟のアルフレットは特に誰かの生まれ変わりというわけではなく何の記憶も無いただの赤ちゃんだ。
「エデル、アルは手がかかる。やっぱり君は姉上だけあるなぁ。アルも誰かの生まれ変わりだと楽なのに」
弟で今は父である国王のアーベルはそんな間抜けた事を言う。
「アーベル様、アルがもし悪い人の生まれ変わりだったらどうするのですか? 普通の子でいいのよ」
母のローザリアは困り顔だ。
「しょうだわ。わたくちみたいな記憶を持った生まれ変わりはわたくちだけでいいの」
「そうかな? アルもそうだと便利だと思うけどなぁ」
父は首を捻っている。全くもうほんとにお馬鹿さんだわ。
私は母と顔を見合わせてため息をついた。
父は元々第2王子で急に王太子になり、国王になった。自分でも国王に向いていないことはよくわかっている。今は妻のローザリアと母親の王太后、そしてライムントに支えられなんとか国王として頑張っている。本来の王太子だった嫡男が廃嫡され、頼りの姉も暗殺され、仕方なく国王になった。とばっちりといえばとばっちりなのだ。そう思うと可哀想かもしれない。
しかし、今は国王なのだしっかりしてもらわないと困る。
「お父しゃま、しっかりしてくだしゃいまちぇ。わたくちがアルを立派な国王にしましゅ」
「やっぱり女王は嫌か?」
「嫌でしゅ。絶対嫌!」
「そうか残念だなぁ。エデルは女王に向いているのに」
性懲りもないやつだ。私は今度は絶対女王になんかならない。
「ライ、行こう」
私はライムントの手を引っ張り部屋を出た。
「大変だな。相変わらずアーベルは依頼心が強い。なんでまたアーベルの子供に生まれ変わったんだ?」
「知りゃないわよ。わたくちは時をもどちてほちかったの。アーベルの子供になになりたくなかったわよ」
できれば、エアハルトが魅了の魔法にかかる前に時を戻して欲しかった。そしたらあいつに魅了の魔法無効の魔道具をつけまくってやる。あのアンボンタンが魔法にかかるから私がこんな目にあうんだ。全くもう。
「エデルの百面相は面白い。またエアハルト殿の悪口でも思っているのか? いつまでも執念深いやつだな」
ライムントはお腹を抱えてくくくと笑っている。
「さぁ、そろそろ行くぞ。気を引き締めろ」
「ライもね」
そろそろパーティーが始まる。
会場にはたくさんの貴族が集まっている。爵位が低い順に入場だ。今は伯爵家が入場している。私達王族は最後に入場する。ライムントは我が国の王族ではないが、元王配候補で今は国王の側近中の側近、それに友好国の王子でもあるので王族に扱いなっているようだ。
入場の合図が来るまでここで待機だ。ここには私とライムントの他に父母、弟、祖父母がいる。祖父は祖母に何やら言い含められているようだ。祖母と目が合った。
「エデル、今日はこの人はあなたに近づけないから安心してね。私がしっかり見張っているわ」
祖母はウインクをする。
「私はもうヘマはしない。エデルを守る」
祖父は何だか変なスイッチが入っているようだ。私も3歳になったし、そろそろ自衛できるくらいの魔法の練習でもしなきゃね。守られてばかりでは動きづらい。
「皆が揃いました。お出ましくださいませ」
宰相の声がした。
父を先頭に私達も入場する。
いよいよパーティーが始まる。
「皆の者、今日はエデルガルト姫の3歳の祝いとアルフレッド王子の1歳の披露目の儀に集まってくれて礼を申す。楽しい時間を過ごしてもらえたら嬉しい。このふたりもきっと王国を繁栄させる大きな力になるであろう。皆の者このふたりをよろしく頼む」
とりあえず王様らしい挨拶はできたようだ。
玉座に座る。
今日は私の1歳のお披露目パーティーのような立ち挨拶は無しだ。王家は座り、貴族達が順番に挨拶に来るようにした。
この方が守りやすい。私もだが、アルも狙われるかもしれない。犯人の目的は国を我がものにする事なのだろうか? それとも私に対する私怨か?まだよくわからない。
国王のアーベルは今のところ、狙われてはいない。
前回の私の死は黒幕にまで辿り着けなかったので、私怨という事になり、実行犯のミアは処刑されたそうだ。今度は殺されたくないし、国も民達も守らなければならない。
絶対に捕まえる。それが生まれ変わった私の使命だと思っている。
あ〜、小さい身体がもどかしい。早く大きくならないものか。
貴族達の退屈な挨拶を眺めながら私のイライラのボルテージは上がりまくっていた。
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