第12話 トルデリーゼの秘密
お茶会が終わり、次の大きなイベントは魔法学校の入学式になった。
お茶会で知り合ったトルデリーゼとはあの後ちょこちょこ会っている。今日も一緒にお茶をすることになっていて彼女が来るのをサロンで待っている。
トルデリーゼも今年から魔法学校に入学するそうだ。この国の魔法学校は何歳でも入れる。貴族でも平民でも入れる。そして魔法を学びたい者ならどの国からでも入れる。
そんな誰でも入れたらセキュリティは大丈夫かと思うが、魔法学校だけあって結界や安心安全な魔法があちこちに張り巡らされている。どこよりも安全な魔法学校なのだ。
ファビアンは8歳から魔法学校に通っているそうだ。次期王太子なる者魔法ができなくては困るらしい。そういえばギルベルト様も魔法学校に通っていたな。あの頃からベルミーナとは婚約者同士だったから仲睦まじかった。
「エデル、私も今年から魔法学校に通うからよろしく頼むね」
ハウルが私の肩をぽんと叩いた。
「ハウは騎士学校に入られるのではなかったの?」
「そのつもりだったけど、エデルが魔法学校に行くなら私も行こうと思ったんだ。魔法学校には魔法騎士科があるからそれに行く。科は違うけど校舎は同じだからすぐ会えるよ」
いや、別に会わなくてもいいのですがね。
「私も行こうかな。5歳でも入れるよね?」
アロイスも参戦するのか?
「アロはダメだ。魔法学校は読み書きが完璧でないと授業が受けられない。まずは読み書きと外国語を頑張りなさい」
お〜、お兄ちゃん風を吹かせている。アロイスは膨れっ面をして部屋を出て行った。
「エデル、お茶会の時に叔父上の婚約者だと言っていたけど、あれは本気なの?」
アロイスが消えたからか、ハウルは直球で聞いてきた。
「私も聞きたいわ」
急にトルデリーゼが現れた。音もなくスッと現れるからいつもびっくりさせられている。
「実はね。前世は確かに婚約者だったんだけど、今世ではまだ何も決まってないの。つまり正式な婚約者ではないの。曖昧なのよ。両親は私が結婚を考えられる年になった時に決めればいいと言っているわ。ライとは年が離れているし、ライの方が先に好きな人ができるかもしれないしね。お茶会でライの婚約者と言ったのは、牽制よ。みんなは私をビアンやハウのお嫁さん候補でこの国に来ていると思ったみたいだから、それは避けたかったの。目が怖かったし、いじめに遭うのもいやだからね」
私はふふふと笑った。
「そうなの? じゃあライムント殿下の片想いなのね」
「叔父上可哀想だな」
ふたりは笑っていて、ちっとも可哀想がっていない。
「私はライを好きな令嬢から狙われているおそれもあるから、ライの婚約者だと言っておいた方が囮にもなるでしょ?」
「確かにそうね。エデルのことは私が守るから大丈夫よ」
私が守る? トルデリーゼは護衛?
私が怪訝な顔をしていたからかトルデリーゼはクスッと笑った。
「ここだけの話よ。エデルには教えちゃうわね」
そう言って指をパチンと鳴らした。
「遮音魔法よ。ハウは知ってるけど使用人は知らないからね。うちのダウム家は表向きは普通の公爵家なんだけど、裏はこの国に暗部を引き受けてるの。元々は何代も前の王弟が起した家でね、武闘派だったため、暗部を引き受けることになったみたい」
暗部か。うちの国にはないのよね。王家直属の暗部しかないから、作らなきゃと思っていたけど、余程信用できる家しか無理だもんね。
「リーゼも鍛えてるの?」
まだ9歳の女の子だ。鍛えてると言われたらどうしよう。
「もちろんよ。うちは3歳になる前に選別されて明らかに向いてない者は養子に出されるの。分家からも適性のある者は本家の養子になるの。私は6人兄弟だけど、両親の血を引いているのは一番上の兄と私だけ、あとは腹違いや種違い、分家の子供なの」
トルデリーゼの話がなかなか衝撃的なので私は固まってしまった。やはり我が国は危機管理能力低いわ。この国みたいなシビアな暗部機関はないもの。考えなくちゃダメね。トルデリーゼは話を続ける。
「私はそこいらの騎士より強いわよ。それに魔法も使える。鍛え方が半端ないからね」
トルデリーゼはふふふと笑っている。それを見たハウルがため息をついた。
「こいつは戦闘オタクなんだよ。闘うのが好きなんだ。あとは蝶略したりするのも好きだな。じいさんは私と結婚させて、王家の盾にしようと思っているようだが、こんな怖い女まっぴらごめんだよ」
そうなの?
「でも、それならビアンと結婚して王妃になった方がいいんじゃないの?」
「王妃は綺麗じゃなきゃダメでしょう?綺麗って容姿じゃないわよ。清廉潔白ってこと。うちは、汚れ仕事もするから私は王妃ってタマじゃないわよ」
汚れ仕事? 何をするんだ? ここにいるのは7歳、8歳、9歳の3人なのに会話の内容は大人としか思えない。
「実はね、私は魅了眼なのよ」
トルデリーゼがぼそっと言い放った。魅了眼? なんだそれ?
「魅了の魔法?」
「魔法とはちょっと違うんだけど、生まれつき眼で魅了できるの。だから諜報活動の時に相手を自分に夢中にさせて情報を聞き出すの。人の心を思い通りにできるの。怖いでしょう。もちろん普段はコントロールしてるわ。私が生まれた時に魅了眼だとわかって家族は大喜びだったみたい。暗部の娘にピッタリでしょう」
トルデリーゼはドヤ顔で胸を張る。
「あの家の者は色んな技を持って生まれてくる、こいつの兄貴は何マイルも離れているところの話し声を聞くことができる。遮音魔法も効かない。兄貴は耳でこいつは眼だ。やっぱり直系はすごいよ」
私は話を聞いて切なくなり思わずトルデリーゼを抱きしめた。トルデリーゼは顔には出さないけど辛いんだ。現実を受け入れるしかなかったから納得した振りをしているだけなんだ。私も立場は違うけどなんとなくわかる。普通の女の子でいたかったのよ。
「リーゼ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」
「な、なによ。私は平気よ。今の生活気に入って……あれ、どうしたんだろ……」
トルデリーゼは涙が溢れ出てきて止まらないようだ。
「私やハウといる時は普通の女の子のリーゼでいいよ。私も普通のエデルでいるから」
「そうだな。リーゼも可愛い女の子なんだな。気がつかなくてすまなかった」
ハウルはトルデリーゼに頭を下げた。
「もうやめてよ。調子狂っちゃうわ。エデルにはかなわないなぁ」
涙を手でゴシゴシ拭きながらふふふと笑う。
「私とリーゼは友達よ。護衛なんてしないでいい。ベルや妃殿下が影を100人つけるって言ってたし、リーゼは私と一緒に楽しい学園生活を過ごしましょう」
「ありがとう」
「でも、私やハウはリーゼの眼を見ても魅了されないのかしら? もしくはもう魅了されてる? 私リーゼ大好きだし……」
私の疑問をつぶやいていると、リーゼはくすりと笑った。
「ハウやビアンは王族だから魅了が効かないの。この国の王族は産まれた時に精神拘束魔法無効化の魔法を植え付けられるのよ。エデルは悪意のある魔法を無効化する防御壁みたいなものがあるわね。最初はライムント殿下がかけたのかと思っていたけど、生まれつきかもしれないわ。神のギフトかもね」
出た! 神のギフト。でもうちの弟達にもそれ植え付けなきゃダメだな。今度ライムントに聞いてみよう。
トルデリーゼとは本当に親友になれそうだ。それに今日のことでトルデリーゼとハウルの距離が縮まったような感じがする。
国に安全の為の結婚でも、二人が思い合って結婚した方が良いに決まっている。私はこのふたりが愛し愛されて結婚できるようにフォローしていこうとこの時、密かに違った。
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