第13話 出会えてよかった(トルデリーゼ視点)
エデルガルト殿下と、飛び入りのハウル殿下との3人の楽しいお茶会を終え、移動魔法で私は屋敷に戻った。
「トルデリーゼ様、お帰りなさいませ。旦那様がお呼びです」
帰るなり家令に告げられ、私は父の執務室に向かう。今日の業務報告をしろということだろう。
長い廊下を進んだ先に父の執務室はある。扉の前に立ち深呼吸をしてからノックをした。
「トルデリーゼです」
「入れ」
父の執務室は誰もいないみたいに見えるが何人かの影がいる。父は娘だから、家族だからといっても信用していない。二人きりで会い、危害を加えられると困るので、いつも影を配している。
「リーゼ、エデルガルト殿下はどうだ?」
「清廉潔白な人です。あの方はファビアン殿下の妃となり、いずれ我が国の王妃となるべき方だと思います。ライムント殿下には申し訳ないですが、エデルガルト殿下はすでに生まれ変わっておりますので、諦めていただくべきかと」
「そうか。では、引き続きエデルガルト殿下についていなさい」
頭を下げ、執務室を出た。
私は代々この国の宰相を務めているダウム公爵家の長女だ。
ダウム公爵家は何代か前の王弟が王家を支える為に起こした家で、表向きは宰相の家であるが、裏の顔はこの国の汚れごとを全て引き受ける暗部を取り仕切っている。
ダウム家には神のギフトというチカラを持つ子供が時々生まれる。
私と兄もそうだ。兄は並外れた聴力と予知夢を見るチカラを持つ。私は人の精神を拘束することができる魅了眼を持っている。そして人の心を読むことができるチカラも持っている。
普段はどちらもコントロールして使っていないが、任務がくるとそれらを駆使している。
ダウム家に生まれたものは物心がつくかつかないかくらいの時に適正検査を受ける。家に必要な者は残し、暗部の駒になるように鍛えられる。そして、必要でない者は排除される。
私には兄弟がいるが同じ父母なのは兄だけだ。あとは腹違いや種違い、そして分家筋からの養子。駒はひとりでも多い方がいいので、子供はたくさんいる。
もちろん母も暗部の駒のひとりであり、父母に愛はない。母は宰相夫人という任務を遂行しているに過ぎないが私達に母の顔を見せてくれる時もある。それは私の心の救いになっている。
私達兄弟は一応兄弟ではあるが、皆それぞれに任務があるので会うことはほとんどない。私はこんな家にこんなチカラを持って生まれてしまったので、仕方がないと諦めてはいるが、本音は愛し愛される人と結ばれ、平凡な暮らしがしたい。誰も信じられないような暮らしは嫌なのだ。しかし、そんな望みは叶うわけもない。
エデルガルトはバウムガルテン王国の王女で、暗殺された先の女王の生まれ変わりだという。先の女王は我が国の第2王子であるライムント殿下の婚約者だった。
エデルガルト殿下が生まれ変わりとわかり、ライムント殿下はそのまま婚約者のつもりだが、国王と宰相である父は、次期王太子のファビアン殿下の妃としたいらしい。
私の任務はエデルガルト殿下の護衛と見極めだ。私の心を読めるチカラを使い、エデルガルト殿下の内面を見ること。そして、妃に相応しい人物なら魅了眼を使い、精神に入り込み、ライムント殿下から遠ざけ、ファビアン殿下に思いを寄せるようにすることだった。
私が覗いたエデルガルト殿下の心は私には綺麗過ぎた。心の中に悪意や汚いものが何もない。こんな人を見たことが無かった。
そしてエデルガルト殿下には全ての悪意の魔法を無効化するチカラがある。魅了の魔法など全く効かない。これは魔法というより守護だろう。やはり生まれ変わっているだけあって神の守護が厚いのだと思う。
私はエデルガルト殿下と仲良くなった。任務とは関係なくひとりのただの人間として殿下と友達になりたいと思った。そして守りたいと思った。この人は信用できる。親兄弟ですら信用できない家で生きている私には初めての信用できる人だ。
今日のお茶会で、エデルガルト殿下に私のことをカミングアウトしたくなり、秘密を打ち明けた。ドン引きされるかもしれないと思ったが、エデルガルト殿下に嘘はつきたくなかった。
私は突然殿下に抱きしめられた。
「リーゼ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」
なんでわかるの? あなたも心が読めるの?
そんなこと忘れていたわ。願っても願っても叶わない夢なんて忘れた方が楽だ。心の奥深く押し込んで蓋をしていたのに、なぜわかったのだろう。
私はエデルガルト殿下に一生ついて行こう。そう思った。魅了が得意の私がすっかり魅了の魔法にかかってしまったようだ。
そして、隣にいるハウル殿下も私と同じで、エデルガルト殿下に魅了されている。男女の愛ではなく、家臣としてのようだ。
やはり、ライムント殿下には悪いがファビアン殿下の妃になってもらいたい。もしくはライムント殿下が国王になるかだな。
どちらになってもかまわない。私はエデルガルト殿下を王妃にする。
これから私はエデルガルト殿下のために生きる。生きる目的が決まった。
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