神様、奇跡を起こして!弟の娘に生まれ変わった女王は新しい人生を楽しみたいと思うが周りがそれを許してくれそうもない
金峯蓮華
第1話 奇跡を起こして!
今日は、ここバウムガルテン王国の女王在位1年記念の式典がある。夜には夜会も予定されている。私はその式典の主役の女王のエデルガルトなのだが、本当の事を言うと、女王になんかなりたくなかった。
国王夫妻の第一子に生まれたが、弟が2人いたため、結婚して王家を離れ、静かに暮らそうと思っていた。それなのに、王太子だった弟のエアハルトが魅了の魔法にかかり、卒業パーティーで婚約者を断罪し婚約破棄した。
我が国は平和ボケで危機感ゼロだった。遠い昔に魅了の魔法にかけられた王太子を廃嫡し、第二王子に交代したことがあるのにまた同じ轍を踏んでしまった。
我が国はその時に魅了の魔法を禁忌とし、使用した者や協力者は死罪と決め、魅了の魔法に関するものを全て封印し、もう国中に魅了の魔法に関するものが無くなったから大丈夫だろうと高を括っていたのだった。そんなモノ他国からいくらでも入ってこれるのに。間抜けすぎる。
私は危機管理を怠った国王である父を退位させ、これまた危機管理と自己管理が全くでず、魅了の魔法なんぞに引っかかってしまった王太子を廃嫡させた。そして次男のアーベルが成人すると同時に国王に即位することにして、それまでは私が国王代理を務めることにした。
なぜ代理なのに、今は女王かって? それはね。
「姉上、私は国王の器ではありません。婚約者のローザリアとも話し合いました。私は今までどおり、姉上の側で王弟として支えることにします。この3年間姉上を見てきましたが、私には姉上のようにはできません」
アーベルの婚約者は元々は以前の王太子であったエアハルトの婚約者であったのだが、魅了の魔法にかかったエアハルトが無実の罪で断罪し婚約破棄を言い渡していた。危害を加えられではいけないので身柄は私が預かっていたのだ。ローザリアは筆頭公爵の令嬢で、幼い頃から王妃となる教育を受けており、尚且つとても優秀で、人柄も良く、このまま王太子の婚約者でいてほしいというアーベルのたっての希望でそのままアーベルの婚約者になることとなった。このふたりならきっとうまく国の舵取りをしてくれるはずだ。昨年ふたりは婚姻した。これから生まれてくるであろう子供達のためにもアーベルが国王になるのがいい。
「何を言っているの? 私は1日も早く国王代理なんか辞めたいの。あなたが頑張りなさいよ。アーベルなら立派な国王になれるわ」
「いや無理です。姉上、大臣達からもほらこの通りです。皆、姉上を支持をしています。ここに名前と血判のある人達は私の意見に賛同してくれています」
そこには国と王宮で働くほとんどの人の名前と血判があった。
「私がこの3年間で頑張ってこの国を改革してきたのは、あなたが国王になった時に政をやりやすくするためよ。かなり思い切ったこともしたわ。あとはあなたがローザとチカラを合わせて国を動かしていけばいいのよ」
「だめです。まだまだ改革は必要です。皆は姉上の女王を願ってます。私は次の会議で姉上の女王就任の決を取りたいと思っています。そこで決まったら諦めて女王になってくださいね」
「会議で決をとるだなんてバカね。我が国は元々男尊女卑の思想がある国、みんな今だって私が国王代理をやっているのを忌々しく思っているのよ。賛成する人なんかいないわね」
しかし、蓋を開けてみたら、満場一致で私が女王になることが決まった。どうやらこの国は私が打ち出した改革に賛同してくれている人が多いようだ。それにアーベルの根回しも効いているのだろう。私は男女年齢身分関係なしに力のあるものが適材適所で働ける国にしたい。もちろん危機管理は大事。自国は自国で守れるように騎士団も強化した。そして我が国は大昔に魅了の魔法を禁忌にして以来、魔法など使わなくてもいいという風潮だったので他国よりも魔法についてかなり遅れていた。それを取り戻すために、以前に私が留学していたクラウベルク王国の協力を得て魔法を学ばせ、使える者を増やした。
しかし、他国から指導者を招いたことや、平和主義の父が国王をやっていた時に、悪事を働き私服を肥やしていた者達を一斉に処分したことにより、私を快く思っていない者も沢山いた。いわゆる逆恨みというのを結構受けていた。どこも改革を行う時には痛みを伴う。
約束だし、満場一致であるならばもう逃げられない。私は腹を括って国のために奔走した。
そして女王になり1年。今日の記念式典とあいなった。
◇ ◆ ◇
今日は朝から大忙しだ。侍女達にいつも以上に念入りに磨きあげられる。髪はアップにし、化粧も念入りにはほどこされる。コルセットで思いっきり絞められて、ザ、女王というような真っ白な生地にゴールドの薔薇の刺繍が刺されたマーメイドラインの豪華なドレスを着せられた。戴冠式のあとは馬車でパレードもあるそうだ。
身分を問わず実力があれば良い仕事につけるようになったことで私は平民から人気があるらしい。パレードで生の私をひとめ見ようと、朝早くから大通り脇の歩道には沢山の人達が並んでいるという。
今日1日は女王の仮面を被り頑張るしかないな。
今日は恋人のライムントも来てくれている。ライムントは私がクラウベルク王国に留学していた時に知り合い恋に落ちた。4歳年下なのだが飛び級で王立魔法学校に入った実力者だ。魔法を自在に操り、頭もキレる。苛烈な私に比べるといつも冷静沈着なライムントの方が年上のように思える。
ライムントはクラウベルク王国の第2王子で、私の弟のアーベルが我が国の国王になったら、私はクラウベルク王国に渡り、ライムントと結婚しようと約束していた。なのに私が女王になったばかりにライムントに嫁ぐことは無理になってしまった。
私の王配になって、我が国に定住して欲しいのだが、ライムントも王弟として兄を支える立場、なかなか愛だけでは決められない。
あ〜も〜、アーベルめ、人の幸せを奪いやがって! 自分だけ幸せになるなんてとんでもない奴だわ。
◆◇◆
即位1周年式典は恭しく行われた。大司教の『バウムガルテン王国並びにエデルガルト女王陛下に神より加護を! 永遠の幸せを!』との言葉に見に来ている民達は盛り上がる。
私は民達に向かって挨拶をする。
「私はこれからもすべての人が住みやすいバウムガルテン王国になるように頑張ります。どうか皆さん私にチカラを貸してください。一緒にこの国を素晴らしい国にしていきましょう!」
ウォ〜!!
民からは歓声が上がる。
「陛下、次はパレードです。これで終わりですので頑張ってください」
「わかってるわ。頑張るわね」
宰相の言葉に頷き私は馬車に乗り込もうとした。
「覚悟!」
馬車のそばにいたお仕着せを着た女が急に叫んだ?
え? 何? どうしたの?
私は脇腹に熱さを感じた。そこに目をやると私の脇腹にはナイフが差し込まれている。目の前のお仕着せを着た女はヘラヘラ笑っていた。
「あんたのせいであたしは王妃になれなかったのよ。死ねばいいわ。あんたなんか死ねばいいのよ。アハハハハハハハ」
この女知ってるわ。誰だったかしら? そうだ。魅了の魔法をかけた女……名前は??? ミア、そうミアだわ。
みんな何が起こったのか一瞬分からず固まっている。
まだまだ危機管理が足りないわね。もっと素早く対応ができるように訓練しなくちゃダメね。これじゃあ護衛騎士じゃなくてただの役立たずだわ。
ミアは私の脇腹に刺さっていたナイフを引き抜いた。真っ白なドレスが赤い色に染まる。
「女王陛下!」
「その女を捕えろ!」
遅いわよ。もっと早く動かなきゃ。ナイフを抜いたせいで血が止まらないわ。
「エデル!」
ライムントが私に駆け寄り、回復魔法を掛けてくれている。
「ライ、大丈夫よ。ありがとう」
「姉上!」
「アーベル、危機管理がまだまだね。何故あの女がここにいるの? それに護衛騎士の動きも悪いわ。明日から鍛え直さなくちゃね」
「はい。姉上」
捕らえられているミアは高らかに笑う。
「アハハハハハ、このナイフには回復魔法無効の魔法を付加している。このナイフで付けた傷には魔法は効かない。つまりその女の傷は回復魔法では治らないのよ。ざまぁみろ!」
手に持ったナイフを高く掲げ、笑っている。凄い魔法を付加しているのね。ということは私は出血多量で死ぬわね。私も危機管理不足だったわ。ドレスの下に鉄板でも入れておくんだった。
だから、私は女王になんかなりたくなかったのよ。ライムントと結婚してクラウベルク王国で幸せに暮らしたかったのに。こんな中途半端な時に死ぬなんて。
神様! こき使うばかりで私にご褒美はないの! 私、色々がんばったのに、こんな仕打ちはないんじゃない? 生き返らせなさいよ! 奇跡とやらを起こしなさいよ! 神様! 聞いているの?
「エデル! エデル!」
ライムントが私を抱きしめている。
「ライ、この国を、アーベルを頼むわ。お願い」
「姉上!」
「アーベル、ライと一緒にこの国を強い国にして頂戴。次の国王はあなたよ! しっかりしなさい」
「はい、姉上」
アーベル、何を泣いているの。国王なんだからしっかりしなさい。
「ライ、愛してるわ。私が死んだら私のことなんか忘れて幸せになってね」
「馬鹿なことを言うな! 私にはエデルだけだ!」
馬鹿ね。ライはまだ若いのだから素敵な人と幸せにならなきゃ。でも、私だけだなんて言ってくれて嬉しいわ。
あぁ、段々目の前が暗くなってきた。23年の人生か。眠いわ。
『願いはしかと聞いたぞ』
ん? 誰の声? ライかしらね。この国はライがいればなんとかなるわ。天才魔導士だもの。ライ、この国を、アーベルをお願い……。
◇◆◇
あれ? 明るい。私死んだんじゃなかったの?
「王妃様、お生まれになりましたわ。美しい姫様ですよ。陛下にもお知らせいたしましょうね」
「姫、女の子なのね。この子はきっとエデルお義姉様の生まれ変わりだわ」
ん? どういうこと? 王妃様? エデルお義姉様? まさか? まさか私、アーベルとローザの娘に生まれ変わっちゃったの?
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