第4話 エデルガルト消える


 今日は待ちに待った私のお披露目パーティーだ。この国は王家に子供が産まれても1歳のお誕生日を迎えるまでは周りにお披露目をしないという約束事がある。

 昔、早くお披露目した子供達は皆病になり、亡くなってしまったらしい。それ以来、1年間は王宮の中で静かに過ごすことになったそうだ。


 私は1歳になり、まだ言葉は話せないが、ジェスチャーで自分の意思を伝えられるようになっていた。


 今日はお祖父様とお祖母様が作ってくれたドレスを着る予定だ。でも、このドレス、白地にゴールドの薔薇の刺繍が刺してある。どこかで見たことあるのですが……。


「誰? こんなドレスを持ってきたのは!」


 お祖母様が怒鳴っている。お祖母様ではないのか?


「申し訳ございません。てっきりこの箱だと」


 新人のメイドはあの時、私が着ていたドレスを知らないらしい。


「まさか、今日もあの時と同じようにエデルを狙うつもりか?」


 ライムントは殺気立っている。


「誰がこれを持ち込んだか調べてくれ、人の出入りは魔道具に記録されているはずだ」


 ライムントの命令を受け影や騎士が動いた。そう言えばミアはどうなったのだろう? もし生きているならアーベルの娘が狙われる可能性はある。そして、ミアに後ろに誰かがいたならば。


 そうだ。私は私が殺されたあと、犯人達がどうなったのか全く知らなかった。私としたことが……。だが、誰もその話はしなかったしなぁ。早速調べなくてはならないな。


 1歳のお披露目には白いベビードレスを着ることになっているので、私もそれを着ることにした。


 あのドレスは何か付与されていないか魔法省で調べることになった。


 お披露目の日は、まずは大聖堂で大司教様から洗礼を受ける。そして、民に向けて国王のアーベルが私を紹介する。


 夜には披露パーティーが予定されていた。本来ならお披露目の後にパレードがあるのだが、女王の在位1年記念のパレードで女王が暗殺されたので、今回はやらないそうだ。


「皆の者、今日は我が姫の為に集まってくれて礼を申す」


 アーベル、なかなか国王らしいじゃない。


「姫の名はエデルガルトと名付けた。この子は先の女王であったエデルガルト・バウムガルテンの生まれ変わりだ。きっとまたこの国を素晴らしい国に導いてくれるはず。皆の者、姉、エデルガルトの生まれ変わりである我が娘を支えてほしい。よろしく頼む」

「わぁ〜!!」

「姫様万歳!」

「エデルガルト様万歳!」


 すごい歓声だ。泣いている人もいる。自分でいうのもなんだが、エデルガルトは人気があったのよね。


「エデル、すごい人気ね。また女王になる?」


 母のローザリアは太陽のような笑顔だ。私は大きく頭を左右に振った。もう女王なんてごめんだわ。


「あら、嫌なの? 天職だと思うけどね」


 いやいや、そんな天職はいらん。今度こそ嫁に行く。


 相手は……ライムント? 年が離れすぎかしら?


 私は今1歳だけど、精神年齢は軽く20歳を超えているものね。同世代の男は話が合わないような気がするわ。でも、まぁ、ライムントが先に結婚したら他を探すことにしようかな。今はまだ赤ちゃんだからね。


 お披露目のパーティーはふわふわしたピンクのドレスになった。前世では、こんな可愛いピンクのドレスなんて似合わなかったので、子供の頃もあまり着てなかった。


 今世では可愛いドレスも着てみたいな。


「エデル、エスコートは私がするよ」


 ライムントが乳母から私を奪おうとする。


「いやいや、今日は私がエスコートする。可愛い孫だからね」


 お祖父様も参戦か。


「やはり父親の私がエスコートするべきでしょう。ふたりとも諦めてください」


 アーベルまでか。


 3人でじゃんけんをし、勝ったお祖父様、元の国王が私をエスコートすることになった。


 エスコートと言ってもただの抱っこなんですけどね。


 パーティーは忙しい。あちらこちらで色んな人にご挨拶をする。「可愛いですね」とか「賢そうですね」とか言われ褒められる。

 

 そして、やはりみんなが気になるのは、本当に女王の生まれ変わりなのかということ。本当なんだけど、証明はできないもの。わかる人はわかるみたいだけどね。


「先王様、姫様をお預かりいたしましょうか」


 だんだん私が重くなってきた祖父に後ろからお仕着せを着た侍女らしい女性が声をかけた。


「あぁ、頼む。そうだ、アーベルかライムントのところに連れて行ってやってほしい」

「かしこまりました」


 祖父は私を渡し、話に夢中になっている。お祖父様、大丈夫か? あなた危機管理能力がなく退位させられたのよ。誰ともわからない侍女に私を預けていいの? この侍女、幻影魔法でメアリーになっているけど、本当は全く違う人だよ。


 どこに行くんだ? アーベルもライムントもそちらにはいないはず。


 お仕着せの女性は、きっと侍女ではないな。気配を消しているようだ。私達は誰にも気づかれずホールから出た。

 私は白い布で鼻と口をふさがれる。なんだこれは? この匂いは? 視界が歪み、私は意識を失った。


 視界が元の状態に戻るとそこは全く知らない場所だった。



***アーベル視点


「父上、エデルはどうしたのですか?」

「エデルなら、さっき、侍女に渡したが、お前かライのところに連れついってほしいと頼んだのだが、お前のところでないとすればライのところではないか」


 ライの姿が目の端に入るがエデルを抱いてはいない。


「父上、先程侍女と言いましたが、誰ですか?」

「誰?……メアリーのような気がしたのだが……」


 まさか、父上は誰だかはっきりしない侍女にエデルを渡したのか?


「父上、あなたは、誰だかわからない侍女にエデルを渡したのですか? あなたがなぜ退位したか忘れたのですか!」


 父は顔面蒼白になっている。


「多分、メアリーかと」


 メアリーは今日は極秘の用で別のところにいる。この時間にここにいるはずはない。私は大事で叫んだ。


「誰か! 誰かエデルを知らないか! エデルが消えた!」


 ライムントが走ってきた。


「エデルが消えたとは?」


 地を這うような低い声だ。


「父上がやらかした。エデルを誰だかわからない侍女に手渡したようだ」

「先王、あなたはまたエデルを失うつもりなのですか? まさか、あなたはあなたを退位させたエデルを恨んでいたのか? 殺害させた黒幕はあなただったのか?」


 ライムント、さすがにそれはない。父はただの平和ボケだ。


 父は狼狽えている。


「ちがう、私はそんな事は思っていない。黒幕な訳がない」

「とにかく封鎖します」

「ああ、頼む」


 ライムントが全ての人が転移魔法も含めて、国から一歩も外に出られないように魔法で封鎖した。


 そして、こんなこともあろうかとライムントがエデルガルトにかけた、位置特定魔法で、エデルガルトがいる場所を特定する。


「ライ、場所は?」

「北の端だ。先王から受け取りすぐに転移魔法で飛んだようだ」


 ライは消えた。エデルがいる場所に飛んだのだろう。


 しかし、なぜ護衛達も気が付かなかったんだ? あれ程父には気をつけろと言ったはずだ。



「ジェイド、お前がついていながらどういう事だ」


 私は父の護衛をしていた騎士のジェイドを責めた。


「申し訳ございません。メアリーだったので安心しておりました」

「メアリーだと?」

「はい、メアリーが来て先王に『姫様をお預かりしましょうか』と言ったのです」

「メアリーはエデルを姫様とは言わない」


 ローザとメアリーが来た。


「お嬢様は?」

「父上がやらかした。 今、ライが後を追っている。犯人はメアリーになりすまし、エデルを誘拐したようだ」


 ローザが忌々しそうに呟く。


「幻影魔法でしょうか?」

「そうみたいだな」

「エデルにもしもの事があったら」

「大丈夫だ。エデルはまだ何もしていない。生まれ変わりとは何かを成すためにするものだろう」


 私はエデルが無事でいてくれる事を祈る。


「ライが助けてくれよわよね」


 ローザの言葉に頷く。


「大丈夫だ」


 父は母に扇子でバンバンと打たれている。母は余程腹に据えかねたのであろう。とにかく今はライムントからの連絡を待つしかない。






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