第3話 父母と再会しました。

 今日は父母が私に会うためにここに来るらしい。父が国王を退位したあと、ふたりは離宮に移り、のんびり暮らしている。

 元々、父は穏やかで平和主義、腹黒い策士ではないので国王には向いていなかったのだ。だから危機管理も甘く、やらかしてしまったのだろう。

 退位した後、エデルガルトが生きている間は趣味の絵を描いたり、庭師と一緒にガーデニングをしたりしながら楽しく暮らしていたが、亡くなってからは、ライムントが呆けてしまったこともあり、現国王であるアーベルの手伝いをしてくれているそうだ。

 母はしっかり者なのでエデルガルトが生きている時から王太后として社交界を仕切っている。嫁の現王妃のローザリアとは小さい頃から王子妃教育で顔を合わせているので本当の娘のように仲が良い。エデルガルトが生きていた頃はよく3人でお茶会をしていた。

 それにしても弟で王太子だったエアハルトが魅了の魔法にかかり、勝手に長年の婚約者だったローザリアに婚約破棄を告げたと聞いた時は母も私も驚きで腰を抜かしそうになった。ローザリアがいるから、なんとかなるかという感じだったの。やっぱり、簡単に魅了の魔法にかかってしまうくらいエアハルトは弱かった。

 私達はエアハルトより、ローザリアを選んだ。魅了が解けたあと、エアハルトは友好国の女王の王配になった。王配と言っても沢山いる王配のうちのひとり。まぁ、妃に例えるなら、側妃? 愛妾? みたいな感じのポジションらしい。エアハルトは見た目だけはものすごく良いので、女王が気に入ってくれたようだ。仕事は種付けくらいらしいので、エアハルトにはぴったりかもしれない。


 ローザリアはエアハルトの弟で王太子にスライドしたアーベルに是非にと望まれ王太子妃となった。

 アーベルが子供の頃からローザリアを慕っていたのは知っていたし、まぁ収まるところに収まったという感じ。そしてなぜだか分からないが、私がふたりの子供に生まれ変わってしまった。


「エデル、もうすぐお義父様とお義母様が来られるわ。おふたりともあなたがお義姉様だと分かるかしらね」


 さぁ、どうかしら? そうそう、ローザリアのたっての希望で私はエデルガルトと名付けられた。前世と同じ名前だ。「今世では一応親なのでエデルと呼び捨てにするけど許してね」と言っていたな。まぁ、許すしかない。


ーコンコン

 扉を叩く音がする。


「ライムントです」

「入って」


 また来たか。ライムントは仕事の合間にしょっちゅう私に会いに来る。そりゃ、前世では結婚を約束した恋人だったけれど、今は赤ちゃんと父親の側近。あまりに会いに来るので王妃と不義? みたいな噂もあるとかないとか。


「エデル〜、今日も可愛いな」


 ライムントが私を抱き上げ頬ずりをする。朝からその言葉、何回も聞いているわ。


「我が子ながら本当に可愛いと思うわ。お義姉様が赤ちゃんの時もこんなに可愛らしかったのかしらね」


 ローザリアは完全に親バカになっている。


「今度は何があってもエデルを守る。もうあんな思いはしたくないからね」


「そうね。お義姉様を亡くした時は私達だけじゃなく民も哀しんだもの。早く民達にもエデルはお義姉様の生まれ変わりだってお披露目したいわ」


 いやいや、生まれ変わりだってお披露目をしたら、民達はこの王妃の頭はお花畑か? と思うよ。


 生まれ変わり云々は黙っておこう。


ーコンコン


「王妃様、先王様と王太后様がお見えになりました」

「ありがとう。サロンに行くわ」


 やっと来たか。


 私はライムントから乳母のメアリーに渡された。メアリーは前世の私の乳母で私が亡くなるまで侍女としても、側にいてくれた。まさか今世でもまた乳母になってくれるなんて驚きだ。


「エデルガルト様のお子様の乳母も私がやりますよ。早く産んでくださいまし」とまだ結婚もしていない私によく言っていたが、まさか私の子供ではなく、また私の乳母になるとはね。ちなみにメアリーも私が私の生まれ変わりだとすぐにわかった。そりゃ実の母より長い時間一緒にいたのだから分かっても仕方ない。私の乳母はメアリーしかいないと、私が亡くなってから塞ぎ込んでいたメアリーを引っ張り出してきてくれたアーベルには感謝しかないわ。


「エデルお嬢様、私は二度もあなた様のお世話が出来て幸せです。今度は私より先に亡くならないで下さいましね」


 顔を見るたびに同じことを言う。私も今度はあんなに早く亡くなるつもりはないわよ。今の私の護衛は精鋭揃いだし、影も沢山張り付いているものね。そう簡単には殺されないわ。


「ローザリア、久しぶりだな」

「お義父様、お義母様、お久しぶりでございます。娘のエデルガルトですわ」


 ローザリアがメアリーの手から私を抱きとり父母に見せる。母は私を見て固まっている。


「ローザリア、この子……エデル?」

「やっぱりお義母様は分かりましたわね。この子はエデルガルトお義姉様の生まれ変わりですわ。私とライムント様とメアリーはすぐに分かりました」

「そうなの? エデル、戻ってきてくれたのね」


 母はローザリアから私を受け取り泣きだした。お母様……あっ、お祖母様か。私の顔がお祖母様の涙でびしゃびしゃだわ。メアリー、早く拭いて〜。


「本当にエデルの生まれ変わりなのか? 私はよくわからんがみんながそう言うならそうなのだろう。エデル、よく戻ってきたな。余程アーベルが頼りなかったか?」


 父、いや、お祖父様は笑っている。


 確かにアーベルは頼りないがローザリアとライムントがついていれば大丈夫だと死ぬ間際に思った。まさかライムントがあんなことになって、ローザリアも懐妊し、戦力不足を父と母が補ってくれていたとは。


「頼りのライムントは廃人みたいになっちゃうし、ローザは懐妊で仕事はセーブしなければならなかったものね。やはりエデルの抜けた穴は大きすぎたわ」


 お祖母様はため息をつく。


「ねぇ、ローザ、この子はエデルの記憶があるのかしら? 自分がバウムガルテン王国の女王、エデルガルトの生まれ変わりだと分かっているのかしらね?」

「多分。まだ言葉は話せませんが、目線とか首を動かしたりとかして私の話に答えてくれます。ね、メアリー?」

「はい。エデルお嬢様は私や王妃様、国王陛下、ライムント様のことがお分かりになっているようでございます」

「なら、私のこともわかるかしら、エデル、分かったら何が私にもわかるように合図をして頂戴」


 お祖母様は無茶振りをする。合図か。とりあえず頷いてみるか。私はこくんと頭を縦に振ってみた。


「きゃ〜! エデル、エデルなのね? 私のことがわかるのね」


 こくんこくんと頭を振るとお祖母様は大喜びだ。


「早く話せるようになると良いな。またエデルが女王だ」


 お祖父様のつぶやきは怖すぎる。嫌よ。頭を左右に振ろうとしたが、まだ上手く振ることができない。


 アーベルがサロンに入ってきた。


「姉上は女王になるのがいやだったんですよ。だから今世はできれば普通に嫁がせてやりたいです」

「そうね。エデルは嫌がっていたわね。でもライムントと結婚するの? かなり年が離れているけど」

「そうですね。エデル次第です。エデルとライは仲が良かったですから、もし、年頃になって、エデルがライと結婚したいと言ったら、年が離れているなんて理由で反対はできませんよ。でも、実際エデルから見てライはオッサンだから、ライを選ぶかどうかはわかりませんね」


 アーベルは良いこと言っていたのに最後はクスクス笑っている。そうか、私とライムントは年がかなり離れている。この先、ライムントに好きな人ができるかもしれない。慌てて決める事はないだろう。


 お祖父様とお祖母様はすっかり私を気に入り、それ以来、離宮から毎日やってくる。私が亡くなって以来、暗く沈んでいた王宮も再び私の誕生で明るさを取り戻してきた。


 私は祖父母、父母、乳母のメアリー、そしてライムントの6人からこれでもかというくらい溺愛され、もうすぐ1歳になる。


 1歳になるとお披露目のパーティーが催される。そこで、国内外に向けて、私の誕生を知らしめることになる。

 もちろん警備は万全。ライムントが魔法で色々な対策を講じているらしい。お披露目パーティーでまた、狐さんや狸さん達と会わなければならないかと思うとゾッとするが、私のやり直しの人生はまだ始まったばかり、どんな披露パーティーになるのか楽しみにしよう。

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