第41話 トラウゼン伯爵
私達はヘル男爵夫人の姉の夫の魔導士がいる牢の前に着いた。魔導士は鉄格子の向こうに項垂れたような格好でベッドに腰掛けていた。
「トラウゼン伯爵、私はエデルガルト・バウムガルテンです。あなたが回復魔法無効化の魔法を付与したナイフに刺されたのは私です。話を聞かせて欲しいの」
私は中にいる魔導士、トラウゼンに話しかけた。
トラウゼンはゆっくりと顔を上げ、私達の姿を認識するとベッドから降り、床に頭を擦り付けるように土下座をした。
「女王様、生きていらしたのですね。良かった。本当に良かった。申し訳ありませんでした。やったのは私です。早く死罪にして下さい」
涙を流している。本心なのか? 私はトルデリーゼをチラッと見た。
トルデリーゼは頷き、念話を送ってきた。
『本心よ。間違いないわ。この人は国王の命令には逆らえなかったみたいね』
そうか。本人の口から詳しい話を聞きたい。
「トラウゼン伯爵、もう、夫人は話してくれたわ。あなたからも聞きたいの。話してくれるわね?」
「はい」
トラウゼンはゆっくりと話し出した。
「私の父はバウムガルテン王国の前国王でした。ただクラッセン国王から知らされたので、今にして思えば嘘だったのかもしれません。私の母は私を身籠ったまま、男に捨てられ、私を産みすぐに亡くなりました。私の魔力が強すぎて身体がもたなかったそうです。私は孤児院で暮らしていましたが、ある日私の魔力に目をつけたクラッセン国王の使者が現れ、私を引き取りました。私はすぐにクラウベルク王国に送られて、偽装工作され、クラウベルク人として生きることになりました。義父母はクラッセンの諜報員でした。私は日夜クラッセン国王に感謝しろ。忠義を果たせと言われ続けました。私が17歳になった時、クラッセン王国に呼び戻されました。国王の元で魔法を使うためです。私は国王に命令され、口で言うことをはばかるような事を沢山しました。小さい頃から洗脳されていたので国王の言葉は神の言葉。疑うこともありませんでした。そして、国王の愛妾と娘を戸籍上の家族にしました。私は幼い頃からバウムガルテン王国に対する恨みも植え付けられていました。捕らえられ、洗脳を解かれ、今はまだ呆然としています」
なんだかお涙頂戴芝居みたいな話だ。クラッセン王国は小さな子供を洗脳し、意のままに動かすのだな。
「具体的な事を教えて」
私の言葉にトラウゼンは頷く。
「私が国王に呼ばれた時、そこにはバウムガルテン王国のヘル男爵と夫人、そして、名ばかりの妻がいました」
名ばかりの妻か。
トラウゼンは話を続ける。
「妻は精神拘束魔法がかけられているようでした。クラウベルクに留学していた娘にも精神拘束魔法をかけたらしく、ふたりとも目は虚でした。国王は私にヘル男爵の手助けをするようにた命令しました。が、男爵が帰った後、男爵に全てやらせ、罪を着せる。バウムガルテンは我が国が取ると言いました」
なるほど。やっぱりクラッセン国王はバウムガルテンを我が物にするつもりだったのだな。
でも、なぜ、トラウゼンに祖父が父だと嘘を言ったのだろう? そして、娘は国王の娘なの?
まだ話をもっと聞かなければわからない。
私はトラウゼンの顔を見つめた。
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