第40話 ジジイのことを思い出してしまった
責任を取るか……。
エジンバラの思う責任の取り方とアーベルの思っている責任の取り方は全く違うけど、今はまだそっとしておきましょう。
それにしても、犯人探しでいろんなパターンを考えたけど、まさかのミックスだったわね。驚いたわ。
国を欲しいクラッセン国王説。
エアハルトを傀儡して国を我がモノにしたかったミア親子説。
ライムントに懸想している女性説。
みんな当てはまっちゃったわね。ロッソ伯爵家が絡んでいたのがちょっと驚きだったけどね。
でも、やっぱり1番の悪は祖父かもしれない。祖父は暴君だった。ワンマン国王。誰の話も聞かず、気に入らないと暴力、暴言、殺された者もいる。周りから嫌われ、恐れられ、恨まれていた。
今回のことは祖父がエアハルトを王太子にしなければ起きなかった事件だったかもしれない。
1番の被害者は案外エアハルトかもね。エアハルトは絵が上手かったから、好きな絵でも描きながらのんびり暮らさせてあげたかったけど、あのジジイが誰のいうことも聞かず、ゴリ押ししたのだったわ。
泣いて嫌がるエアハルトを殴り飛ばし、反対する祖母や父母にも殴る蹴る。母はそのせいでお腹にいた4人目の子供を流産し、私も殴られて頭を切ったんだった。あの時の傷はライムントと知り合ってから魔法で治してもらったけど、ジジイに対する怒りはまだちゃんと消えていない。
ジジイはひとりで寝ている時に突然の心臓発作で亡くなったのだけど、絶対暗殺されたのだと思う。家族は死んでくれて嬉しかったから死因は詮索しなかった。
今、思えば祖母が影にやらせたのかもしれない。でもあの時のジジイが死ななければ私はどこかの国の国王の側妃にされていた。まだ10歳なのに。何かとの富と引き換えに慰み者にされるところだった。
確か、確かその国王は側妃が20人くらいいて、酷い扱いをしている。あんなところには絶対行かせないと祖母がジジイに向かって泣きながら叫んでいたのを覚えている。ジジイが亡くなったのはそのすぐ後だから、犯人は祖母だと子供ながらに思った。きっと父母も共犯だろう。母を溺愛している父は珍しく怒り狂っていたもの。
まぁ、ジジイを恨んでいた者は山ほどいたから誰に殺されてもおかしくない。護衛騎士すらジジイを恨んでいたものね。
ジジイが死んで我が国は風通しのいい国になった。もちろん私の側妃の話もなくなった。この時にエアハルトの王太子を取り消せばよかったのに、なんで廃嫡しなかったのかしら?
そうだ、ローザリアを婚約者にして、もう王太子妃教育が始まっていたからだったわね。ローザリアがいれば大丈夫だろうということになったのだな。
神様、この時点まで時を戻してくれないかしら。また歪みが出てトルデリーゼみたいな子が出てもまずいから、もうやらないか。
そういえばエアハルトはどうしているのだろう? 確か王女と番だったとかで、女王の王配から王女の夫に立場が変わったと手紙が来ていたような気がする。
番ならきっと大事にしてもらえているだろう。長いこと眠っていたからほったらかしになっちゃったけど、またエアハルトにも会いたいな。馬鹿な弟ほど可愛いものよね。
私は魔導士の牢に向かう廊下を歩きながらふとそんなことを考えていた。
うすら笑いを浮かべる私の顔をライムントが覗き込んだ。
「エデル、どうかした?」
「ううん。別に。エアハルト元気かなと思ったの」
「エアハルトか……。会えるかもしれないな。もうすぐ我が国の記念式典があって、あの国も招待状を出しているから誰かが来ると思う。それまでにこの件を片付けて、式典には私の妻として出席してほしいな」
「そうなの。本当に会えたら嬉しいわ。でもこの件が片付いたら私はやりたいことがあるの。できるかどうかわからないけど、それが済むまで結婚はもう少し待って欲しいの」
私の言葉にライムントは眉を下げた。
「仕方ないな。仰せのままに。私はいくらでも待つよ」
トルデリーゼから念話が飛び込んできた。
『やりたいことってあちらの世界のことでしょう?』
『そう。こちらが解決すればあちらも変わるのかと思ってね』
『あちらの世界も変わっているかもしれないわね』
『ええ、どう変わったのか気になるわ。それにトーマスとジェフリーはこちらの世界で存在しないのか、そしてこちらにはいるエルネスティーネはあちらではどうなっているのか? その辺りをちゃんと確認したいの』
『私も手伝うわ。魔法でどうにかならないなら神様を締め上げるしかないわね』
『そんなことができるの?』
『任せて』
トルデリーゼは私にウインクをした。
神様を締め上げることができるトルデリーゼって……。
絶対敵にならないようにしようと私は誓った。
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