第42話 クラッセン国王に辿り着きたい
『ねぇ、リーゼ、この人、ジジイの息子だと言っているけど本当かしら?』
私は念話でトルデリーゼに尋ねてみた。
『ジジイ?』
『我が家では前国王のことはそう呼ばれているの。嫌なやつだったわ』
『どこでも色々あるのね』
どこでもということは、トルデリーゼの家でも色々あるのかもしれないな。
トルデリーゼはトラウゼンを凝視している。
『この人はそう思っているから嘘はついていないわ。一度クラッセン王国の国王をスキャンしてみたいわね。嘘だらけでしょうね』
やっぱり真実はわからないか。
『ただ、そのジジイの念のこもった遺留品みたいなのがあれば、ジジイとこの男が血縁関係があるか、鑑定できると思うわ』
『リーゼ、すごいわね』
私は頭の中で簡単の声を上げる。
『残念ながら私じゃないの。できるのはライムント殿下よ』
『え? ライってそんなすごい事できるの?』
『できるわよ。彼は天才魔導士よ』
そうだったわ。忘れていた。
『その件は後でライと話しましょう』
私はトラウゼンに話しかけた。
「あなたはクラッセン国王に利用されていたのよ。洗脳され、使われていたの。わかるわね?」
トラウゼンは頷く。
「はい。私は父母からクラッセン国王の命令に従うように精神拘束魔法をかけられていたのだと思います。その上で洗脳も受けていたのです。ここに捕らえられてから、外と遮断され、ずっと一人でいたので、だんだん正気になってきたようです。今まで自分がしたことを思い出しただけで身体が震えてきます。私は悪魔です。どうか私を処刑して下さい」
確かに処刑にはなると思うけど、魔法で自我を失い人形のように動かされていたのだ。
それより、クラッセン国王はヘル男爵と出会う前から精神拘束魔法を使っていたのだな。クラッセン王国にロッソ家の血筋のもがいたのだろうか?
元々クラッセン王国にはそれほど魔法が盛んではなかったはずだ。国王だけが魔法を使えていたのか?
私の頭はこんがらがっていた。
「トラウゼン、罪を認めるのだな」
アーベルが声を上げた。
「はい。認めます。1日も早い処刑をお願いします」
「妻や娘はどうだ?」
アーベルの問いにトラウゼンは首を捻った。
「妻も娘も書類上の関係です。数えるほどしか会ったことはありません。妻は国王の愛妾です。娘は多分国王の娘でしょう。先程は私の娘と言いましたが、それも魔法で思い込ませられていました。多分妻と娘も魔法で私の子供だと思い込まされているのだと思います」
「わかった。沙汰を待て」
私達は牢を後にした。
◇◇ ◇
「ねぇ、アーベル。トラウゼンの養父母を調べないといけないわね。多分、国王に魔法を教えたのは誰か、その人達は知っているのではない?」
「はい。調べさせたのですが、二人とも亡くなっていました」
アーベルは俯いた。
「多分事故に見せかけて殺害されたのでしょう」
「いつ?」
「つい最近です。うちの影が向かった時は事故が起きたすぐあとでした」
先回りされて消されたのね。なんとかクラッセン国王の幼少期を知る人に辿り着かないものかしら、ジジイと何か関係があるならお祖母様が何が知っているかもしれない。
「アーベル、お祖母様に話を聞いてみたいわ。ジジイの話なんて嫌だと思うけど、ジジイが若い頃、クラウベルクやクラッセンとどんな風に接していたのか? そうね。昔、魅了の魔法にかかり、婚約を破棄し、廃嫡された元王太子のあたりまで調べたいわ」
「そうですね。お祖母様やハンナに話を聞き、そしてそのあたりのことを知っている人を紹介してもらいましょう」
アーベルが頷くと、ライムントは私の肩に手を置いた。
「私はクラウベルク側から調べてみる。ダウムにも協力してもらうからな」
トルデリーゼの顔を見た。
「任せて。私がクラッセンに入り、国王の幼い頃を知っている人を探して心をスキャンするわ。じゃあ、また連絡するから」
そう言って消えた。
「じゃあ、私達もクラウベルクに戻ろう」
ライムントが私の肩を抱いた。
「いや、姉上は我が国にいて指揮をとってもらわないと困ります」
アーベルがライムントにくってかかった。私はもう指揮なんかとらないわ。
「いつまでも甘えるな! 指揮官はお前だ!」
ライムントが怒鳴った。
「アーベル、大丈夫。あなたならできるわ。ローザお願いね」
ローザはにっこり微笑んで頷いた。
「また、何かわかったらくるわね」
「はい。待っています」
「待っていないで動きなさい!」
私はアーベルを叱咤激励し、ライムントとともに移動魔法でクラウベルク王国の屋敷に戻った。
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