第43話 宣戦布告

 昨夜は久しぶりにゆっくり眠った。隣で眠っているはずのライムントの姿がない。早起きして鍛錬でもしているのかしら。とりあえず朝の準備をしようと次女メアリーを呼んだ。


「エデル様、お目覚めですか?」

「おはよう。よく寝たわ」


 私は伸びをした。


 メアリーは私が子供の頃から傍にいてくれている侍女なので、もうあうんの呼吸でなんでもしてくれる。


「そういえば、ライ知らない?」


 簡単な普段用のドレスに着替え、髪をまとめてもらいながらメアリーに尋ねてみた。


「ライムント様なら、執務室におられましたよ。朝早くからなにやら忙しそうにしておいででした」

「そう。リーゼは?」

「トルデリーゼ様は今朝はまだお目にかかっておりません」


 そうか、クラッセン王国に入ると言っていたな。私だけがのんびり寝ていていいのかなと罪悪感にとらわれてしまう。


―バタバタバタバタ


 ライムントの足音だ。走っているみたいだけど、急用かしら?


―コンコン

―バタン


 扉が開き、ライムントが顔を見せた。


「エデル、大変だ。クラッセン王国がバウムガルテン王国に宣戦布告したようだ」


 えっ? 宣戦布告?


 驚いて固まっている私の頭の中に声が聞こえてきた。


『エデル、起きてる? クラッセンがバウムガルテンに攻め込むようよ。国王が国民にバウムガルテンを落とすと表明を出したわ。あの国の国民は皆、精神拘束魔法で、国王が全てみたいな暗示をかけられているわ。そして、国王の側近の魔導士がかなりヤバいやつよ。私はもう少しこっちで色々やってみるわ』

『わかったわ。宣戦布告は今ライから聞いたわ。無理しないでね』

『ふふふ、私に無理なんてこと何もないわよ。心配無用。じゃあね。また連絡するわ』


 トルデリーゼから念話が来た。相変わらずパワフルだ。


 私はライムントの顔を見た。


「今、リーゼからも今、念話で連絡が入ったわ。アーベルは知っているのかしら?」

「そうか。リーゼは向こうに潜入しているから、話が早いな。バウムガルテンにはとりあえずこちらの魔導士を何人が向かわせた。国境の結界を強化してもらうよ」


―ビービービー


 ライムントの魔道具が鳴った。手に取りそれをみる。


「アーベルからだ」


 ライムントは魔道具に話しかけた。


「アーベル、宣戦布告だな」

「ええ、クラッセンに潜入しているエジンバラから連絡がきたよ、。とりあえず結界を強化しようと魔導士達を向かわせたのだけどうちの魔導士だけでは心配なので、そちらの魔導士を貸してもらえないか?」

「あぁ。もう向かわせた。空にも張らせよう」

「ありがとう。姉上は?」


 私は魔道具を見た。


「アーベル、クラッセン国王のそばにいる魔導士が誰なのか、牢にいるトラウゼンに聞いてくれない? どうやらそいつが精神拘束魔法で民を洗脳しているみたいなの。同じ魔導士なら知っているわよね?」

「わかった、すぐ調べる。姉上はとりあえずクラウベルクにいて。クラウベルクは安全だ。あと、子供と女性、年寄りはクラウベルクに避難させたいんだ。国王と話ができるようにライに頼んで貰えないかな」


 アーベル、なんだか国王っぽいわね。


 ライムントを見ると指でOKを作っている。


「アーベル、私は今から移動魔法で兄上の元に移動する。すぐに話ができるようにするからちょっと待ってろ。じゃあ、一旦切るぞ」


 通信を切った。


「エデルとメアリーも一緒に王宮に行くぞ。ここは安全だが、王宮の方がもっと安全だ。義姉上がエデルを連れてこいとうるさいからな。クラッセン王国のことが落ち着くまで王宮にいてくれ」

「わかったわ。私にできることがあったら言ってね」


 私達は王宮に飛んだ。


◆◆ ◆


「エデル、やっと会えたわ。ライは全然エデルに会わせてくれないんだもの。しばらくここにいてね」


 こちらの世界では11年ぶりだ。私が眠っている間、何度も見舞ってくれていたと聞いた。


 ベルミーナは私の姿が現れるとすぐに私に抱きついてきて、ライムントを威嚇している。


「義姉上、そう怖い顔をしないで下さい。私は兄上と話があるのでエデルを頼みますね」

「頼まれなくてもエデルは守るわ。全くクラッセンの強欲国王め。バウムガルテンを狙っていたのね」


 ベルミーナはぷんぷんしている。大国の王妃がそんな顔しちゃダメでしょう。


「ベル。顔に出てるわよ」


 私はくすっと笑った。


「いいのよ。ここはプライベートエリアだし、喜怒哀楽はっきり出しても問題ないわ。一歩出たら完璧な王妃よ。エデルの部屋は私の隣よ。なんならずっと王宮にいてくれてもいいのよ」


 ベルミーナは私にぴったりくっついて離してくれそうもない。


「そうそう、うちの息子のハウルの恋人がクラッセン人なの。彼女の父親が宮廷医師でね。ライとリーゼから話は聞いてるでしょ?」

「ええ。聞いてるわ」


 ベルミーナは嬉しそうに話を続ける。


「それで一族揃って我が国に亡命してもらったの。もちろんリーゼにふるいにかけてもらって、強欲国王の息のかかったものは排除したから大丈夫よ。夫は代々宮廷医師だし、色んな話が聞けるわよ。まずはハウルね」


 ベルミーナは侍女のカレンにハウル殿下を呼んでくるように告げた。


 ハウル殿下とはこの世界では初めて会う。こんなおばさんで驚かないかしら?


 私はちょっと緊張した。

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