第44話 太王太后(アーベル視点)
姉からクラッセン国王の傍にいる魔導士について調べろと言われた。牢にいるトラウゼンに聞けという。私はすぐに牢に向かった。
「トラウゼン、聞きたいことがある」
トラウゼンは隅にあるベッドに腰掛け項垂れていたが、私の声に顔を上げた。
「なんでしょうか?」
「国王の傍にいる魔導士について教えてほしい」
トラウゼンはその魔導士について知っていることを教えてくれた。
名前はリーヌス。噂では祖父はバウムガルテン人の貴族だったらしい。リーヌスは国王とは乳兄弟で母が国王の乳母だったそうだ。魔力はかなり強く、あの国の魔導士のトップ。戦争の戦略も立てているという。
祖父が貴族というので、太王太后である私の祖母が何が知っているかもしれないと私は祖母の元を訪れた。
祖母は太王太后宮に住んでいる。もうかなりの高齢だが、あの暴君の代わって影で国を動かしていた女傑だ。今でもかくしゃくとしている。
「アーベル、久しぶりね。あなたからの先ぶれの文で読んで、私もそのリーヌスの祖父のこと調べてみたの。ちょっと昔の話になるのだけれど聞いてくれる?」
「もちろんです」
私は祖母の話を聞くことになった。祖母は私達が影でジジイと呼んでいる祖父、全国王の妃だ。祖母曰く、お飾りの王妃だったらしく、祖父とは公務以外で全く関わらなかったという。
祖母は筆頭公爵の令嬢であり、元は祖父の兄の婚約者だったらしい。兄が廃嫡され、弟の妻になったらしい。正に私と同じだ。祖父の兄と祖母は幼い頃からの婚約者で、恋愛感情はなかったが、いずれは国王と王妃として国を盛り立てていこうと思っていたそうだ。
しかし、祖父の兄が学園で恋をした。相手は伯爵家の令嬢だった。
「クラリッサも伯爵家の人達もとても良い人達でね。マティとクラリッサはとても愛し合っていたの。伯爵家なら王妃になれないこともないでしょう? だから私は婚約を解消しようと思ったわ。後ろ盾が弱いなら、私が家の跡を継ぎ女公爵となり、うちの公爵家が後ろ盾になればいい。うちは跡継ぎが私しかいなかったから分家から養子をとることになっていたから、その養子と私が結婚すれば丸く収まるはずだったの。それがあの男が……」
あの男?
祖母の顔には怒りが滲んでいるようだ。
「前の国王、最低最悪な男アウグスティーン・バウムガルテンよ」
ジジイか。祖母が祖父を毛嫌いしているのは子供ながらに知っていた。祖母はあの頃、王妃宮に住んでいて、王宮に姿を現すことはなかったからだ。
「マティーアスはあいつに嵌められのよ。あいつはマティの恋人が禁忌の魅了の魔法を使って、マティを落とした。恋人の実家の伯爵家がマティを傀儡し、国を我が物にしようとしたと告発したの。証人も沢山連れてきたわ。クラリッサとその家の者は全て処刑。マティは国外追放になったわ」
「それって、まるで私達みたいじゃないですか」
「そうね。エアハルトの事件を聞いた時、あまりにそっくりなので驚いたわ。でも大きく違うところがあるわ」
「大きく違うところ?」
祖母はふっと笑う。
「今回は本当に魅了の魔法だけれど、あの時は冤罪だったの。全てはアウグスティーンが自分が国王になるために、マティを蹴落とす為に、恋人のクラリッサと伯爵家にありもしない罪を着せ処刑したのよ。私は何度も冤罪だと訴えたけど、誰も信じてくれなかった。どうにかクラリッサとマティを逃そうとしたけど、クラリッサはあっという間に処刑されてしまったの」
祖母はその時の悔しさを思い出したようで握りしめた拳から血が流れ出していた。私はハンカチを差し出した。
「お祖母様、血が」
祖母は、驚いたように自分の手を見た。
「あら、ほんとね。あの時の事を思い出したら悔しくなってきちゃった」
祖母はふふふと乾いた笑いを浮かべた。
「どうせあいつのことだから、マティも事故に見せかけて殺害するだろうと思ったから、マティだけでもなんとか助けたくてマティが追放された時の馬車を知り合いの魔導士に頼んで魔法ですり替えてもらったの。やはり思ったとおり、馬車は崖から海に落とされたわ。あいつはマティは死んだと思ったみたい。マティは移動魔法で私の知り合いのクラッセン王国の伯爵家に身を寄せた。あの頃のクラッセン王国は今とは違い、平和な国だったのに。ひょっとしたら、その魔導士はマティの孫かもね。幸せに暮らしていると思って放置していたけど、マティがあの男を恨んで、子供や孫にずっと恨み言を言い続けるていたとしたら、その孫かもしれない魔導士がバウムガルテンを恨んで、クラッセン国王に手を貸しても仕方ないわね」
「し、しかし、お祖母様はその大伯父上を助けたのでしょう? それなら悪いのはジジイで国は関係ないじゃないですか!」
あっ、ジジイって言っちゃった。私は口を押さえた。祖母は笑っている。
「でもね。あなた達はそのジジイの子や孫なのよ。クラリッサは何も悪くないのに一族郎党処刑されたわ。ジジイ憎けりゃ子も孫も国も憎いになったのかも。気持ちはわかるけど、それは許せないわ。私はこれでもバウムガルテン王国の太王太后よ。女としてはお飾りの王妃だったけど、国のまつりごとをする王妃としてはお飾りじゃないわ。あの暴君のお尻拭きをどれだけやらされたか。これでも他国に顔は効くわ。アーベル、あなたも国王としてここが、踏ん張りどころよ。それと大きく違うもうひとつは、あなたとローザリアは思いあっていたけど、私はあの男が鳥肌が立つくらい大嫌いだったの。閨事も陵辱されて身籠った一度だけしかないわ。あっこれあなたの父上には内緒よ。あの子弱虫だからこれを知ったら凹むでしょ?」
祖母はそう言うと不適な笑みを浮かべた。
◇◇ ◇
「ライ、王太后宮にすぐに来てくれないか。祖母から重要な話を聞いた。手伝って欲しい」
「わかった。すぐに行く」
私はライムントに連絡をした。まさか、これが大伯父上の復讐なのか?
しかし、あの国王が乳兄弟の復讐につきあっているだけなんてありえないだろう。とにかく、ここはライムントやエジンバラと共有して、策を練った方がいい。
私は祖母とともに皆が来るのを待った。
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