第45話 こちらでも
「よっ、エデル。すっかりおばさんになったな」
ハウルはいきなりパンチを繰り出した。
「誰がおばさんよ。あなたもちょっと大きくなったんじゃない?」
こちらもパンチを返す。
「あの世界より年とってるからな。あっちの世界とこっちの世界は違うんだよ」
確かにそうだけど。
「まさか、ハウも記憶があるとはね」
「私も思い出した時は驚いた。似て非なる世界だよな。エデルもリーゼもおばさんだし、リアは元からクラウベルクにいるし」
私はハウルに今日会った目的を告げなければならない。
「ハウ、お願いがあるの。リアのごお父様に会いたいの。なんとかならない?」
「リアの? 理由を聞かせてくれないか?」
ハウルはあちらの世界のハウルと同じ魂だとなんだか確信できる。間違いなく信用できる。私はトラウゼン達が話した事をハウルに伝えた。
「リアのお父様は元クラッセン王国の宮廷医師でしょう? 何か知らないかと思って……」
「それならリアの父上より、お祖父さんの方が知っているかもな。お祖父さんに会ってみるか?」
そりゃお祖父さんの方が知っているだろう。
「でも、クラッセンにいるんじゃないの?」
「まさか。一緒に亡命してきてるよ。置いて行ったら殺されるだろ?」
そりゃそうだ。
「リアに記憶は?」
私は気になったのでテレーザリアにもうひとつの世界の記憶はあるのかと聞いてみた。
「ないようだ。ない方がいい。あいつの記憶は辛いからな」
確かにそうだ。テレーザリアや母親には辛い記憶しかない。
「エデル、ずっとここにいるんだろ?」
「ええ」
「これからは母上の傍にいてやってくれないか。母上はエデルのことをずっと心配して、毎日長い時間祈りを捧げていたんだ。何度も移動魔法で寝ていたエデルを見舞って、戻るたびに泣いてた。『女王になるって言った時に何がなんでも反対して、クラウベルクに連れてくるんだった』ってね。だから母上の傍にいてやってほしい。もう、バウムガルテンには戻らず、ずっとこっちにいてくれよ。私もエデルとリーゼがいたら安心だしな」
「そうだったの。ベルには心配かけたのね。私はライと結婚して、ずっとこっちにいるつもりよ。リーゼもライの家の家臣になる予定」
「そうか。母上はお前と叔父上の子供をアロの妃にしたい。男なら、私達の妹を産むって言ってたぞ。あの母上のことだ。誰の話も聞かん」
ハウルはふっと笑った。
「おばさんだけど産めるかしら?」
私は自虐的に言う。
「10年寝てたから体力あるだろ? 大丈夫さ。じゃあ、リアの家族と話しつけるからちょっと待っててくれ」
ハウルは手を振りながら部屋の外に出た。
◆◆ ◆
テレーザリアの家族との対面は思っていたより早く実現した。
テレーザリアの父も祖父もこの国でも宮廷医師をしていた。母も城で働いている。亡命してきて、クラッセン国王から狙われる可能性があるので、安全な城の中にいるらしい。
亡命と言っているだけで本当はクラッセンのスパイじゃないのかって?
クラウベルク王国は魔法大国。我が国と違って危機管理もしっかりとやっている。スパイは入れても入らせないがモットーらしい。
「初めてお目にかかります。私達に聞きたいこととはクラッセン王のことでしょうか?」
「ええ、そうです」
私はトラウゼンから聞いた話をふたりに話した。
テレーザリアの祖父、フランク・ゾイゼはその話に首を捻った。
「まず、その娘は間違いなく国王の娘です。私が取り上げました。そしてトラウゼンが前バウムガルテン国王の息子だというのもあり得ません。トラウゼンは国王の息子です」
はぁー? 息子? いや、年が……。
私の頭は混乱した。
「国王は早熟でした。精通してすぐ、まだ年端もいかない頃に城のメイドに手をつけて産ませた子供です。身籠ったと知ると城から追い出した。まさか誰も国王の子供を身籠ったとは思いません。そのような者があの国には何人もいます」
いやいや、クラッセン王が好色だとは聞いていたが、そんな年齢で孕ませたとは呆れ果てて言葉も出ない。ではなぜジジイが父だとトラウゼンに思い込ませたのだろう?
「なぜ、トラウゼンに前バウムガルテン王を父と言ったのでしょう?」
私の言葉にフランクが口を開いた。
「それはきっと、乳母とその息子達のせいでしょう」
乳母と息子達?
「話せば長い話になります。あなた様もバウムガルテン王国の姫なら昔、バウムガルテン王国で起きた魅了の魔法事件のことはご存知ですね。真相はご存知ですか?」
真相?
「真相があるの? 知らないわ」
フランクから語られた真相は衝撃的なものだった。
全てはジジイが絵を描いた謀りごと。ジジイの兄で当時の王太子だったマティーアス大伯父は恋人を冤罪で処刑され、国外追放となり、国を出てすぐに殺されるはずだったのがらお祖母様の機転でクラッセン王国に逃した。大伯父はそこで魔導士の家系の令嬢と結婚し、その娘が国王の乳母か。
「では、国王に魔法を教えたのはその一族ですか?」
「でもそれは、大伯父の復讐であって、国王は関係ないのでは?」
私の言葉にフランクの息子のラルフが答えた。
「あれはクラッセン王がまだ子供の頃でした。バウムガルテン王国の何かの式典に訪れたことがあります。その時に、あの前国王にクラッセン国王と、当時王太子だった今の王が何か粗相をしたようで、前バウムガルテン国王からその事で恥ずかしめを受けたのです。昔はクラッセン王国は平和でのんびりした国でした。それを前国王に非難されたのです。口汚く罵られ、最後にはクラッセン王国など儂が自分のモノにする。お前達は皆、儂の奴隷よと高笑いしたのです。私は当時、今の国王の側近で傍でその一部始終を見ていました。皆、あの前国王が怖くて口をつぐんでいました」
ジジイか。やっぱりジジイが悪の根源だったのか。
「それで復讐を?」
「いえ、復讐どころか……。国に戻るとすぐ、クーデターを起こし、穏やかな気質の父親を幽閉し、自分が王になりました。そこからは軍事に力を入れ、あちこちの国に攻め込み、バウムガルテン王国よりも大きくなりました。国王は弱い父親とは違う、強い前バウムガルテン王に憧れを抱いていました。バウムガルテン王に近づき追い越したい。そして最後はバウムガルテン王国を我が物にする。それが目標となったのです。乳母の息子は憧れのバウムガルテン国王の甥。バウムガルテン国王を恨んでいることなんて気にせず傍に置いたのです。憧れと恨み、元は違うが、お互いの目標はバウムガルテン王国を破滅させること。私達は今の国王のやり方についていけず、亡命しました。私達が逃げてからのことはわかりませんがそれほど変わっていないと思います」
「ありがとう。話はわかったわ。フランク、あなたはマティーアスに会ったことはある?」
私は聞いてみた。大伯父がどんな人だったのか気になったからた。
「ございます。マティーアス様はとても立派な方でした。あの方が国王になっていればクラッセン王も歪まずにいたのかもしれません。ただ弟に対する恨みはかなり激しいものでした。滅多に口には出されませんでしたが、何かの時にポロッとおっしゃったことがあります『絶対に赦さない。どんなぬ惨殺しても気が済まない。絶対に幸せになってはいけない男だ。地獄に落ち、もう、転生などせず、未来永劫地獄で苦しみ続けるがいい』と。普段は物静かなお方なのに、あの時は身体が震えるくらい恐怖を感じました」
フランクはその時を思い出したのか顔が強張っている。
恨みと憧れが重なっだことがこの事件の発端なのだろうか?
私は天を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます