第47話 リーヌスの話1 (ライムント視点)
トルデリーゼはローブのやつを手招きした。そしてフードを脱がせた。
「ライムント殿下、こちらはリーヌス。あなたが拉致しようとしていた魔導士よ」
拉致か。まぁ拉致だな。トルデリーゼはリーヌスの肘のあたりをぐっと握った。
「リーヌス、こちらライムント殿下。あ〜、違うか。今は臣籍降下して公爵だから閣下かな。愛するエデルの為に日夜奮闘中なの」
そう紹介するとふふふと笑う。
私はまだ状況がよくわからなくて困惑したような顔をしてしまう。
リーヌスは私の前にスッと出た。
「お噂は以前から聞いていました。クラウベルク王国の王子にして、天才魔導士だと。俺はリーヌス・クロイツと申します。あなたよりひと足先にリーゼに拉致され、ここにおります」
「何が拉致よ!」
トルデリーゼの言葉にリーヌスはくすっと笑う。
トルデリーゼは椅子に腰掛け、私にも椅子に座るよう促す。私は椅子に座った。トルデリーゼはご機嫌のようだ。
「私、クラッセンの王宮に潜入していたのだけど、そこでいろんな人の心を読んだわ。でもね。ほとんどの人が心が無いの。みんな精神拘束魔法か暗示か、洗脳かなんだかわからないけど、自我を失ったひとばかりで気持ち悪かったの。そんな時リーヌスに会ったの。クラッセン王の側近、参謀、天才魔導士って言われていたから、接触してみたのよ。近づいて心を読んでみたら、こっち側の人で驚いたわ。それでぐいっと入り込んで拉致したの。リーヌスが消えたとバレたら王宮は大騒ぎなんじゃ無いかしら」
そんなことをしたらやばいんじゃないか? バウムガルテン王国の仕業だと思われたらどうする? 私は頭を抱えたくなった。
「大丈夫よ。クラッセン王はバウムガルテン王国は魔法があんまり使えないと思っているわ。確かにクラウベルク王国からあなたが入っているけど、あなたはエデルが眠ったままになってから腑抜けになってるから、クラウベルクも何もしてこないとリーヌスが情報操作しているの。それに王宮には、リーヌスのダミーを置いてきたから問題ないわ」
また、人の心を勝手に読みやがった。私はトルデリーゼを睨んだ。
「リーゼ、また人の心を勝手に読んだな」
「ごめんごめん。ついね。あなた天才魔導士なんだから自分でブロックすればいいのよ。最近たるんでるんじゃない?」
ちっ、舌打ちをしてしまった。本当にトルデリーゼとは相性が悪いようだ。
「そんなことより、リーヌスの話をしてくれないか。状況が把握できない。私はリーゼのように人の心が読めない」
トルデリーゼはくすりと笑う。
「本当に私達相性が悪いわね。きっとどちらもエデルの1番になりたいからだわ」
ん? まさか?
「まさか、リーゼ女色か?」
トルデリーゼに殴られた。
「ばっかじゃないの! そんなわけないでしょ? 私はノーマルよ。あなた以外の異性が恋愛対象。エデルとは魂レベルよ。全くなんであなたみたいなつまらない男をエデルは好きなのかよくわからないわ。馬鹿な子ほど可愛いってやつかしら?」
酷い言われようだ。
「申し訳ない」
とりあえず謝っておこう。
―あはははは
笑い声がする。リーヌスか。
「あんたら面白いな。俺が知っているクラウベルク人はあんたらだけだが、みんなあんたらみたいに魔力が強い変なやつばっかりなのか?」
いや、私は別に変じゃないが……。
「クラウベルク人はみんな普通よ。私は異質なだけ、こいつはダメ王子」
またもやえらい言われようだ。もうスルーしょう。
「話を戻すぞ。リーヌスのことを話してくれ。クラッセン王との関係やマティーアス殿下との関係も知りたい」
「あぁ、話そう。そろそろだと思っていた」
リーヌスはそう言うと椅子に座った。
「俺がマティーアスの孫だということは知っているな?」
「あぁ」
私は一応、王子で公爵なんだが、こいついきなりタメ口か? まぁ、他国の人間だしいいか。トルデリーゼの顔を見たらあかんベーをされた。
リーヌスは小さく咳払いをして私達を見た。
「俺のじーさん、マティーアスは元はバウムガルテン王国の王太子だった。前国王に嵌められて、国外追放になり、秘密裏に前国王に消される手筈だったところを前王妃の機転でクラッセン王国に逃げてきた。そこで、ばーちゃんと恋仲になった。まぁ、傷心でカッコよかったじーちゃんにばーちゃんが惚れて、外堀を埋めちまったらしい。そんなことはどうでもいいか。じーちゃんは前国王のことは恨んでいたが、バウムガルテン王国に恨みはなかったんだ。元々国王になどなりたくなかったが邪悪な弟が国王になったら民が苦しむと国王になるつもりだったと言ってた。愛する者を冤罪で殺され、落ち込んでいたが、うちの家の者達やばーちゃんのおかげで元気を取り戻したそうだ。うちはクラッセン王国でもかなり田舎の領地だから、本当に王都とは無縁でのんびり暮らしていたんだ。だが、かーちゃんが行儀見習いで王宮に勤めることになって、同じく王宮で働いていた魔導士のとーちゃんと結婚して兄上と俺が生まれた。兄上と同じくらいの時に現国王が産まれたのでかーちゃんはそのまま侍女から乳母になった。前国王夫妻は穏やかな良い人だったらしい。しばらくは平穏に暮らしていたんだが、そんな時、国王と王太子がバウムガルテン王から辱めを受けたと噂に聞いた。それからすぐ、クーデターが起こり、今の国王になった。かーちゃんは前王妃に可愛がられていたから、乳母を辞めてまだ小さかった俺と領地に戻ったんだ。野心家だったとーちゃんは兄上と城に残った。とーちゃんが現国王と兄上に魔法を教え、現国王は無茶苦茶なことをしだした。じーちゃんもはじめは前バウムガルテン王に復讐をするつもりだと思っていたので、俯瞰していたらしいが、休みで領地にかーちゃんに会いにきたとーちゃんから国王がバウムガルテン王に憧れていて、自分もあんな風になりたいと見習い、悪事を繰り返していると聞き、落胆したんだよ。それからしばらくして、天才魔導士だと噂が立ち始めた俺を国王が欲しがった。野心家のとーちゃんはもちろん俺を国王に差し出す気だった。じーちゃんは俺に『手のひらの上で国王を転がせろ。バウムガルテン王はどうでもいいが、バウムガルテン王国は守りたい。あの国には恩人がいる。だからお前が私の代わりにやれ。バウムガルテンを守ってくれ。あの王は最後にバウムガルテンをとるつもりだ。お前ならできる』って言われて、王宮に入ったんだ。噂の参謀は俺じゃなくて兄上。俺はその影であの王の犠牲者が最小で済むように画策してたんだわ」
なんだか私が思っていたのとは話が違うようだ。
まだ、リーヌスの話は続いた。
***
長くなったので分けますね。
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