第20話 テレーザリアの進路は?
やはり予想どおり、私はクラウベルク王国では何度か狙われた。事故に見せかけようと馬車のタイヤの部品を壊されていたり、あきらかに誰かに雇われたと丸わかりな破落戸に扮した傭兵が絡んできて危害を加えようとしたり、毒入りの飲み物や食べ物を口に入れそうになったり、でも、その都度優秀な100人の影達(ほんまかいな?)とライムントとトルデリーゼによってことごとく片付けられた。
それらがあの時の黒幕なのかどうかは結局分からずじまいだ。なかなか黒幕には辿り着けないが、やはり狙いは私で間違いない。生まれ変わってまで狙われるなんて本当に不本意だ。
今日はバウムガルテン王国に戻ってきた。もちろん移動魔法でだ。
テレーザリアが我が国に来てしばらく経ったので、これからどうするかきちんと話をすることになった。もちろんトルデリーゼやライムントも一緒だ。
私達はあれからちょこちょこ移動魔法でバームガルテン王国とクラウベルク王国を行ったり来たりしている。
そしてこっそりクラッセン王国にも行ってみた。
クラッセン王国ではちゃんとテレーザリアは我が国に嫁ぐ道中で亡くなった認識になっているようだ。
テレーザリアのお母様もテレーザリアが出発したあと持病が悪化して亡くなっている。トルデリーゼの精神拘束魔法って本当に恐ろし過ぎる。
こんな魔法を使われたら我が国みたいなチョロい国すぐに乗っ取られてしまうわ。クラウベルク王国がそんな邪な国でなくて本当に良かった。
それにしてもクラッセン王国はすぐに亡くなった第2王女の代わりに第3王女の輿入れを提案してきた。
第3王女なんてどこにいたのだろう? テレーザリアに聞いたら知らないと言っていた。クラッセン王国の国王はあちらこちらに手をつけた使用人がいて、中には子供がいる者もいるらしい。テレーザリアのお母様のように愛妾として王宮に召し上げられる者もあれば、市井で囲われている者もいるみたいだ。
「あの王は好色過ぎて気持ち悪いわね」
トルデリーゼは言う。好色なんて9歳の子供が言う? 本当に9歳なの? トルデリーゼのことだから魔法で9歳になっているだけで、本当は私とたいして年が変わらないんじゃないかと思うわ。
あっ、私は正真正銘7歳だけどね。
まあ、そんな話は今はどうでもいいな。今日はテレーザリアに会いにきたのだった。
私達が到着すると、すでにプライベートエリアにあるサロンにみんなが集まっていた。プライベートエリアには強固な結界が張られ、遮音魔法が施されていて悪意のある者は入れないので安心安全な場所なのだ。
「遅くなりました。もうみんなお揃いですね」
私の言葉に皆それぞれに頷く。
「で、どうなりました?」
とりあえずは父に話を振った。
「エルナリアは王家に仕えてくれることになった。エルナリアは元々行儀見習いで彼の国の王宮で働いていたので王妃付の侍女として働いてもらうことになった」
テレーザリアのお母様のエルナリアは元はクラッセン王国の子爵令嬢で貴族学校も卒業しているそうだし、我が国に来てから母と仲良くなったようで役職は侍女だが、まぁいうところのお話相手みたいなポジションになるとのこと。父は話を続ける。
「テレーザリアはまだ10歳なので成人するまでは普通に学校に通うことになった。アルの婚約者候補ということでこちらに来てもらったが、アルとは年も離れているし、それは気にせず、いずれ然るべき相手を見つけて輿入れしてもらおうと思っている」
「テレーザリアはそれでいいの」
私はテレーザリアに聞いてみた。
「はい。陛下に従います」
「従わなくていいのよ。テレーザリアはテレーザリアのやりたいと思うことをやればいいの。恩があるかとかそんなことは考えなくていいのよ」
私の言葉にテレーザリアは俯いてしまった。
隣にいるトルデリーゼを見るとニヤニヤしている。
リーゼ、また勝手に心を読んだな。
リーゼの念話が飛び込んできた。
『テレーザリアはやりたいこともあるみたいだし、好きな人もいるみたいよ。まぁ、相手は内緒にしておくわ。意外な相手よ』
『そうなの? 相手さえ問題なければ結婚もありね』
『どうかな?』
「まぁ、テレーザリアはまだ10歳だし、慌てて決めなくてもいいのではなくて?」
黙っているテレーザリアを見て、何があるのだと察した母が助け船を出した。確かにまだ10歳だし、何も決めることはない。
ふたりは今は王妃宮のプライベートエリアの部屋から王宮の使用人エリアにある一室に母娘で一緒に移動して暮らしているので、そのまま暮らすことになった。
エルナリアもまだ若いし、素敵な人に巡り会って、今度はちゃんと恋をして結婚できたらいいなと思う。不幸な事故のような形で国王の愛妾にされてしまい、王妃から酷い目に遭わされたが、娘のテレーザリアには愛情を持っているようだ。とても仲睦まじい母娘に見える。国王には憎しみはあれど愛など全くないらしい。ここにきてからは憎しみも消えましたと笑っている。
それにしてもクラッセン王国は要注意だ。いずれ戦を仕掛けてくるかもしれない。我が国をチョロいと思っているはずだし、このままというはずはないだろう。
話し合いというか、報告会のようなものが終わり、私達はそのままサロンでお茶を飲んでいる。
「テレーザリアも魔法を学びたかったら、クラウベルク王国の魔法学校に行くのもありよ。やりたいことがあるのなら遠慮しないで言ってね」
私がそういうとテレーザリアは決意を秘めたような顔をした。
「本当に言ってもよろしいのですか?」
「もちろんよ」
「私は魔法医師か魔法看護師になりたいのです。クラッセンにいる頃から病で苦しむ母を見ていてなんとか治せないものかとずっと思っていました。クラッセンは魔法があまり発達していない国です。魔法があれば怪我や病気も治せるなんて全く知りませんでした。トルデリーゼ様の魔法で私の身体の傷は綺麗に治していただきましたし、母の体内の毒も魔法で排出し、元の元気な母に戻してもらえました。私も魔法医師か魔法看護師になってたくさんの苦しむ人達を救いたいと思っています。こちらで働かせてもらい、お金を貯めて、クラウベルク王国の魔法学校の医療科で勉強したいと思います」
テレーザリアは心の内を打ち明けてくれた。
「お金は出世払いでいいじゃない? いや、出してもらっちゃえばいいわ。バウムガルテンはまぁまぁお金持ちなのよ。私達は今、そのクラウベルク王国の魔法学校に通っているの。テレーザリアも一緒に行きましょう。科は違うけど一緒にランチしたりできるわ。お父様、我が国の魔法医師育成事業ということにしない? テレーザリアを魔法医師にしましょうよ」
私は父におねだりをした。
「いいわね。我が国にも魔法医師欲しかったの。テレーザリア、しっかり勉強して魔法医師になってちょうだい」
母も乗り気になってくれた。
こうしてクラウベルク王国の魔法学校に通う仲間がまたひとり増えた。
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