第19話 第2王女来たる
いよいよクラッセン王国から第2王女がやってくる日が来た。
私も出迎えようとバウムガルテン王国に戻っていた。トルデリーゼも私の侍女に化け私の傍にいる。
「いよいよね。どんな子かしら?」
「良い子だといいわね」
祖母と母が話をしている。さて、どんな子がくるのだろう。
クラッセン王国にいるクラウベルクの間者とトーマスとジェフリーがすでに第2王女の母親を助けだし、バウムガルテン王国に連れてきているが、幻影魔法を使っている為、クラッセン王国側は全く気がついていないようだ。
魔法で作った人形を幻影魔法で第2王女の仕立て上げる。深夜、見張りを魔法で眠らせ、母親と人形を入れ替え、移動魔法でバウムガルテン王国に連れてきた。
トーマスとジェフリーってあんな風だがなかなかやるみたいだ。私はすっかり見直した。
母親に化けた人形は既に亡くなっている。第2王女が国を出た時は本物だったので王女もまだ母親が助け出されたことは知らない。
母親は魔法医師達から治療を受け、すっかり元気になっている。やはり、毎日少しづつ毒を盛られていたようだ。
毒でかなり身体が弱っていた。クラッセン王国は王妃がかなり苛烈な人らしく、沢山いる側妃や愛妾に嫌がらせを色々しているらしい。毒のせいだろう。子供のいない側妃や愛妾も多いようだ。
他国の内情に干渉する気はないが、国王は野心家で闘い好き、王妃は苛烈。なかなかの国だなぁ。近づきたくない。
「クラッセン王国、第2王女殿下御一行がお見えになりました」
来たな。さぁ、謁見だわ。
「よく来てくれたな。面をあげるが良い」
国王であるアーベルが第2王女に声をかけた。
「バウムガルテン王国の輝ける太陽であらせられます国王陛下にご案内申し上げます。私はクラッセン王国第2王女テレーザリアと申します。よろしくお願いいたします」
第2王女テレーザリアはカーテシーをした。
私の斜め後ろからトルデリーゼがテレーザリアをじっと見ている。
トルデリーゼが念話で話しかけてきた。こんな時、念話はものすごく便利だと思う。
『エデル、聞こえる?』
『聞こえるわよ』
『テレーザリアの心は悲しみと恐怖でいっぱいだわ。やはり影の報告通り、母親を人質に取られて、バウムガルテン王国を中から揺るがせろと命令されているようね。彼女はそんなことはしたくないし、できないと思っているわ』
やっぱりそうか。テレーザリアは良い子みたいだ。トルデリーゼは話を続ける。
『ただ、一緒についてきている侍女や護衛騎士はダメね。テレーザリアの見張りね。とくに侍女は王妃の回し者だわ。この国でもテレーザリアを貶める為にきている。悪意がぷんぷんするわ』
『じゃあ、帰ってもらうわね』
私はあらかじめ決めておいた合図を父に送った。
トルデリーゼが心を読み、お付きの者達が悪と出た時は、魔法で父の肩に痛みを走らせる。
練習でやってみた時に父は「痛すぎる。もう少し優しくしてくれよ」と言ったが、優しくしたら気がつかないでしょ。
上手く合図が伝わったようだ。
「テレーザリア、これからは我が息子の妃候補としてこの城で過ごすが良い。伴の者達、大義であった。第2王女は無事受け取った。国元に戻って良いぞ」
「いや、それは困ります。私達は姫とともに……」
「誰が発言を許した! お前の国は発言を許されてもいないのに国王に話すのか!」
お〜、アーベル。カッコいいじゃん。侍女の言葉を父が切り捨てた。
「我が国のやり方に従ってもらう。第2王女には身ひとつで来てもらいたいと言ったはずだ。荷物も人もいらん。持ってきた荷物も持って帰ってもらおう。さぁ、帰ってもらえ。第2王女はこちらに」
トルデリーゼがテレーザリアを迎えに行く。
「お待ちください!」
侍女が食い下がろうとした。トルデリーゼはしれっと話す。
「何か?」
「い、いえ何も」
「では、速やかおかえりくださいませ。姫様はこちらに」
お供の者達の雰囲気が変わった。みんな素直に従っている。
どうしたのかよくわからないが、皆第2王女を残し、荷物も一緒にクラッセン王国に戻って行った。
『リーゼ、みんな急に素直になってどうしたのかしら?』
私は念話で聞いてみた。
『ふふふ、精神拘束魔法よ。王族は防御してるかもしれないけど家臣は無防備よね。私のは後遺症は出ないから大丈夫よ。しばらくは解けないわ』
怖ぇ〜! 精神拘束魔法をかけているところを初めて見たわ。こんなにすんなりかかるのね。トルデリーゼを敵に回さないようにしよう。私は心に誓った。
テレーザリアは不安そうにしている。トルデリーゼがテレーザリアをスキャンし、つけられていた盗聴魔道具をみつけた。それを外し魔法をかけて消した。
『何の魔法?』
『幻聴魔法よ。定期的に日常会話が聞こえるのちょっと周波が合わないような感じで雑音が入って不明瞭に聞こえるようにしてるわ』
やっぱりトルデリーゼ怖ぇ〜。
父はテレーザリアに声をかけた。
「ここは安全だ。クラッセン王に言われたことなど忘れてのんびり暮らすと良い」
「し、しかし母が……」
「心配はいらぬ」
父は優しく微笑んだ。
これってめっちゃ賢王っぽいじゃない。きっとテレーザリアは父を凄い人だと勘違いしちゃうわ。
トルデリーゼと侍女が部屋に案内して、湯浴みをさせて着替えをさせた。念には念をいれてクラッセン王国から身につけてきたものは廃棄する。テレーザリアは我が国が用意したドレスに着替えた。
『エデル、あの子折檻を受けていたようよ。青あざがいっぱいあったわ。鞭で打たれたようなミミズ腫れになっているところもあったから、みんなまとめて綺麗に治しておいたわ』
『ありがとう』
『じゃあ、あの部屋に連れて行くわね』
『ええ、みんなもう部屋にいるわ』
『OK』
やっぱりトルデリーゼは凄い。一生傍に置いておこう。
―コンコン
扉を叩く音がする。
「リーゼです。テレーザリア様をお連れしました」
トルデリーゼの声に侍女が扉をあけた。
部屋に入り、テレーザリアが顔を上げた。
「お、お母様? どうして?」
「助けていただいたのよ」
「で、でも大丈夫なのですか? あの国王が黙っているとは……」
テレーザリアは母に会えた嬉し涙を流しながら心配している。
「大丈夫。ここには強力な結界が張ってあるから、悪意のある者は近づけない。心配はいらん。しばらくは母と水入らずでのんびりしなさい」
お〜、賢王。みんな笑いを堪えるのに必死だ。
「テレーザリア、しばらくゆっくりしてから先のことを考えればいいわ。クラッセンには我が国に来る前に病で亡くなったことにしているから大丈夫よ」
母の言葉にテレーザリアは目を白黒させている。
「魔法でどうとでもできるのよ」
母はふふふと微笑んだ。
ライムントが魔法で工作をし、トルデリーゼが精神拘束魔法でみんなに同じ記憶を受け付けた。
クラウベルク王国に勝てる国などどこにもないだろう。
絶対に逆らってはいけないな。それにしても魔法は凄い。そして怖い。
私は魔法の恐ろしさを改めて認識した。
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