第18話 秘密の会議
しばらくしてダウム家がクラッセン王国に送り込んでいる諜報員から報告が来たそうだ。
部屋でくつろいでいる時にトルデリーゼから念話で連絡が来た。我が国より速いなんてさすがだ。
うちも前の私が国王代理になってから国の守りを中心に諜報機関作りにも力を入れてきたが、やはり積み重ねてきた年月が違う。
『私の記憶ではクラッセン王国に第2王女なんていなかったのだけど、影からの報告によるといたの。それがね……』
トルデリーゼの話では第2王女は国王がお戯れで手をつけたメイドが産んだ娘らしい。
メイドと言っても行儀見習いにきていた子爵家の令嬢らしく、貴族にはちがいない。ただほんのお戯れだったので、国王からの寵愛を受けるわけでもなく、子供ができたからという理由で愛妾として召し上げられた。
しかも離宮に半ば軟禁状態で押し込まれ、娘を出産して以来身体が弱ってしまい、寝たり起きたりの生活をしているが、ちゃんとした医者には診せてもらえないらしい。
ふたりは虐げられたような生活をしている。今回は国王の命令で母を人質に取られ、国の駒として平和ボケのバウムガルテン王国に送り込んで来られるようだという。
『そんな小説に出てくるような設定の愛妾や王女が本当にいるなんて驚きだわ』
私は目がテンになった。
『本当にクラッセン王国の国王はクズね。女の敵だわ。可哀想ね』
トルデリーゼも怒っているようだ。
『とりあえず、祖母と母に報告して、対応を考えるわ。そんな子ならクラッセン王国に帰すのは可哀想だし、母親ともどもバウムガルテンで引き取りたいわ』
『バウムガルテンだけで策を練るのは大変だから、クラウベルクの王家にも協力してもらったらどうかしら? 魔法を使えば色々できるし』
『なるほど、そうね。ありがとう。あしたライにも話してみるわ』
『そうね。じゃあまたあした』
『ありがとう。じゃあね』
やはり念話は便利だ。離れていてもすぐに話ができる。
これを魔道具にしたら売れるをじゃないかしら? 念話伝書バードみたいなの。ライに考えて貰おう。
次の日、私は移動魔法でバウムガルテンに戻った。
王宮のプライベートエリアにある母の秘密のサロンで祖母と母と私の3人で話をする。この部屋は結界の中にあるので誰も入れない。
「エデルの話はクラッセンの第2王女のこと?」
祖母が口を開いた。
「こちらにも何か情報が来ましたか?」
「ええ、虐げられた生活を送っているみたいね」
母が目を伏せた。
「母を人質に取られ、何か任務を受けてこちらにくるようです」
私の言葉にふたりは目を丸くして固まる。平和ボケの我が国ではそんなことはまずない。貴族だけではなく、平民にしてもみんなのんびりしている。
だから目をつけられたのだろう。
「エデルはどう考えているの?」
祖母が私の顔を見た。
「人質に取られている母親共々助けたいと思っています」
「私もそれがいいと思うけど、そんなことができるの?」
母も私と同じ考えのようだが、やはり我が国の力では不可能ではないかと思っているようだ。
「とにかく第2王女が来てから人となりを見極めます。虐げられているというのも、こちらに入り込むためにクラッセン王国がわざと撒いている噂かもしれませんしね」
念には念を入れなければならない。
「でもどうやって? みんな魅了避けはしたけど、演技や口がうまければリチャードは簡単に騙されてしまうわ」
リチャードとは私の祖父だ。前の私の父で、前国王。とても良い人なのだが、危機管理能力はゼロだ。
「アーベルはまだマシかしら? エアハルト様のことがあったから用心深くはなっていると思うわ」
確かにそうだろう。私達3人は頷きあう。
「クラウベルクにいる親友が心を見ることができるの。嘘偽りは一瞬で見抜けるの」
私の言葉にふたりは再び驚き目を丸くした。
「大丈夫よ。普段はチカラをオフにしているわ。まぁ、見られて困る心でもないけど」
私はトルデリーゼに見られて困るモノなんか何もない。
「でも他国の人でしょう? 信用して大丈夫なの?」
母は心配そうだ。
「大丈夫です。彼女は私に忠誠を誓ってくれているの。一生傍にいてもらうつもりなの」
「エデルがそう言うなら大丈夫ね。それにしても急にキナ臭くなってきたわね。平和だけが売りのこの国なのに」
確かに売りは平和しかない。
母が低い声で呟く。
「狙いはあれよ」
「あれ?」
「北の山よ」
確かに北の山では鉱石が取れるが狙われるほどのものなのか?
「つい最近、北の山で上質な魔石が見つかったの。あれがあれば我が国はのんびり暮らせるわ。だから箝口令を出して秘密が漏れないようにしていたのだけど、見つかってすぐ、縁談が来たから漏れていたのね」
我が国の箝口令などザルみたいなモノだろう。
「私は知らなかったわ」
「えっ? ライが知ってるから知らせたと思っていたわ」
「聞いてないわ。あとでライに確認しておくわ」
どうして教えてくれなかったのだろう?
とにかくこれ以上魔石のことが広がらないようにしなければ。私はパチンと指を鳴らした。
「今の何?」
母が聞く。
「魔石の話を面白おかしく話そうとしたら言葉が出てこなくなる魔法。魔石を知る人全てにかけておいたからとりあえずは安心よ」
「私達にも?」
「私達はかからないわ」
「やっぱりクラウベルクの魔法学校に行くと違うわね。そんな魔法があるのね」
祖母は感心している。
そんなことより、速いうちに王女対策を考えておかなくては。
次回の秘密の会議にはアーベルとライムント、トルデリーゼも参加させることにしよう。
「じゃあ、クラウベルクに戻るわ。またね」
私は移動魔法を使い、母のサロンを後にした。
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