第21話 私は誓う(テレーザリア視点)

 まさかこんな日が来るなんて夢にも思っていなかった。


 私は一応、クラッセン王国の第2王女らしい。国王が戯れで手をつけた行儀見習いにきていた子爵令嬢が産んだ娘。


 母は下位ではあるが貴族だったので愛妾として離宮とは名ばかりの粗末な建物に住まわされた。

 伯爵家以上なら側妃になれたらしい。


 妊娠したことにより、国王の興味は薄れお渡りもない。たった一度の事故のような災難で妊娠してしまうなんて母は可哀想だと思う。


 憎い男の子供なのに母は私を大切に愛してくれた。


 国王は女好きで母の他にも側妃や愛妾がいて、市井には平民の愛人もいた。


 王妃は物凄く嫉妬深く苛烈な性格で、母や私を虐げ、嫌がらせをした。

 母は病にふせっていたが、本当は病などではなく、王妃が毒を母に飲ませていたらしい。私も無理な用事を言いつけられ。できないと鞭で打たれたり、殴る蹴るの暴力をふるわれた。


 国王は戦が好きな野心家で小国に攻め込み自領としていた。


 私はある日、国王に呼ばれた。呼ばれたなどという優しいものではない。騎士が母と二人で住んでいる離宮に踏み込んできて、罪人を捕らえるように私を連行したのだ。


 私は玉座の前に連れてこられた。あまりの出来事に混乱していると、王妃が蔑んだような口調で私に言い放った。


「やっぱり下位貴族の娘が産んだことね。挨拶ひとつもできないの。あ〜嫌だわ」

「まぁ、そういうな。最低限のマナーは今から叩き込めばいい」


 国王はニヤリと笑った。


「お前には王太子の婚約者としてバウムガルテン王国に行ってもらう」


 王太子の婚約者?


 私が黙っていると国王はヘラヘラと笑う。


「なぁに、王太子と言ってもまだ5歳だ。形だけた。お前は中に入って……そうだなぁ。王妃と仲良くなって毒でも盛るか? 国王をたらし込むにはまだ子供だし、それはこちらの手の者を供としてついて行かせるからそいつらにやらせるとしよう」


 何を言っているの? 


 王妃は口角を上げた。


「母親はこちらの手にあることを忘れないようにね。あなたが何かおかしなことをすれば母はどうなると思う? ただ殺すだけじゃつまらないから、色々楽しんでから殺すわ。だからあなたは国のためにやるしかないの。ちゃんと毒を盛りなさい」


 私は母を人質に取られた。


 それからは王女に見えるようにマナーや知識を詰め込まされた。


 母は子爵令嬢だが、祖母が伯爵家な出身だったらしく、私は母から伯爵令嬢のマナーや知識は教えてもらっていたので、それほど大変ではなかったが、私が普通にできることが面白くない王妃は難癖をつけては罵られたり、暴力を振るわれたりした。


 母を人質に取られていては逃げることもできない。かと言って、バウムガルテン王国の王家の方々に毒を盛るなんて無理だ。


 私はバウムガルテンに行って、どうすればいいのか悩んでいた。


「リア、大丈夫よ。バウムガルテン王国は良い国だと聞いたことがあるわ。きっと幸せになれる。私のことなど忘れて、バウムガルテン王国の皆さんに可愛がってもらいなさい。もうこの国に戻ってきてはダメよ」


 母と最後に少しだけ会わせてもらえた時にそう言われた。


「バウムガルテンに到着しても、あの国の人達と勝手に話をしてはダメよ。私を通しなさい」


 侍女役の工作員に言われた。


 私は王女教育中に王妃が工作員に指示しているのを聞いてしまった。きっとわざと聞かせていたのだと思う。王妃は私とバウムガルテン王国の人を接触させずに、侍女役の工作員に間に入らせて私がわがままで高飛車な王女だと思わせ、嫌われるように仕向けろと指示していた。

そして悪口や悪い噂を流せと。王妃は本当に嫌なやつだ。


 バウムガルテン王国のことも馬鹿にしていた。危機管理の緩い間抜けな国だと。だから攻め入って落とすそうだ。


 いつか、クラッセン王国が負けて、国王と王妃が処刑されればいい。いつしか私はそんなことを願うようになった。


 バウムガルテン王国に到着すると、とても歓迎された。そして、お供も荷物もいらないと言ったのでびっくりした。お供の者達は文句を言っていたが、魔法? で黙らされ戻っていった。

 後で聞いた話だが、あの場にいたのはクラウベルク王国の魔導士で、精神拘束魔法をかけ、私がバウムガルテン王国に来る道中で急に亡くなったとみんなに認識させたそうだ。なので、花嫁道中はバウムガルテン王国には行かず、途中で引き返したということになっているらしい。

魔法って凄い。


 そして私をもっと驚かせたのは、母をすでに助けてくれていたことだった。

 母は毒も抜けてすっかり元気になっていた。

母も魔法でクラッセン王国側には亡くなったことに認識させているそうだ。


 母は王宮で働くことになった。そして私は夢だったクラウベルク王国の魔法学校の魔法医療科で魔法医師になる勉強をさせてもらえることになった。


 この恩は絶対に忘れてはいけない。私は私達母娘を底なし地獄から救ってくれたバウムガルテン王国とクラウベルク王国の皆さんの為に生きよう。


 私は誓った。立派な魔法医師になり、両国に尽くそう。


 そしてクラッセン王国の王家を潰す。私は心に決めた。

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