第49話 マティーアス閣下(ライムント視点)
「さぁ、行くよ」
ボケっと要塞のような屋敷に見惚れていたら、リーヌスに肩を叩かれた。
屋敷の塀に、リーヌスは呪文を唱えながら手のひらをあてる。
この屋敷は普通では入れないようだ。それだけ、危機管理をしているのだろう。
塀から扉のようなものが現れた。
「入って」
リーヌスに促され、私達はそこに足を踏み入れた。
すると、扉のようなものは消えた。
「リーヌス様、おかえりなさいませ」
家令のような男やメイド達か出迎える。
「ただいま。じーちゃんいる?」
「はい。旦那様は書斎におります」
「今から行っていいかな? 友達も一緒なんだ」
「すぐに聞いて参ります。しばらくお待ちくださいませ」
家令は姿を消した。
私達はサロンのソファーに座り、メイドが淹れてくれたお茶を飲んでいると、老人とは決して言えないようなガタイがよく、見るからにかっこいい男が現れた。
リーヌスは男を見て、ソファーから立ち上がり駆け寄った。
「じいちゃ〜ん!」
そしてこどものように抱きついた。
「じーちゃん、こいつらはクラウベルク人。こっちがトルデリーゼ、こっちがライムント。リーゼはクラッセン王からバウムガルテン王国を守るためにクラッセンに来て色々画策しているんだ。ライは太王太后さんの命令で俺をバウムガルテンに連れて行くために来たんだ。ふたりとも信用できる奴らだよ」
「太王太后?」
私は立ち上がり挨拶をした。
「初めておめにかかります。私はクラウベルク王の弟でライムントと申します。私の婚約者のエデルガルトがバウムガルテン王国の王姉で太王太后様の孫にあたります」
「この家の主のマティーアスだ。君の婚約者はあの眠ったままの元女王か」
「はい」
「もう、目覚めたのか?」
「はい。それでエデルを害した黒幕を追いかけているうちに、クラッセン王とリーヌスに辿り着き、太王太后様からリーヌスを連れてくるように命を受けこちらに来ました」
リーヌスはくすくすわらっている。
「もう、誤解はとけたよ。そんでね。じーちゃん、太王太后さんって昔婚約していたアビゲイルさんだろ? いつも『アビゲイルには足を向けて眠れない。もう二度と会うことはないだろうが、もしも会えるなら礼を言いたい』って言っていたから、俺と一緒に会いにいかないか?」
「是非、一緒に来てください。私の移動魔法で一瞬に飛ぶことができます。あちらで話を聞かせてもらえませんか」
私はマティーアス閣下の目をじっと見た。
「よかろう。あの国の土はもう二度と踏むことはないと思っていた。まさかこの年になって戻れるとはな。ライムント殿、アビゲイル様は元気か?」
「はい。お元気です」
「そうか……」
私達はバウムガルテン王国の太王太后宮に移動魔法で飛んだ。
◇◇◇
急に私達が現れたので皆驚いたように固まっている。
「太王太后様、リーヌスとマティーアス閣下をお連れしました」
「え? マティ?」
太王太后は手で口を押さえている。
「アビゲイル様、お久しぶりです。あの節はありがとうございました。ずっとあなたに礼を言いたかった」
「マティ、生きておられたのですね。クラリッサとその家族を助けられなくてごめんなさい。クラリッサもあなたと一緒に逃すつもりだったのに……」
太王太后様は涙を流している。
「アビゲイル様、あなたは何も悪くない。悪いのはアウグだ。いや、私がもっとしっかりしていればクラリッサ達をあんな目に合わせることはなかった」
やはりジジィ(私までそう呼んでいいのか?)は悪の根源だな。しばらくの時間、マティーアス閣下と太王太后様が話をするのを私達は見守っていた。
「でさ〜、おばあちゃん、俺に話があるんだろ?」
突然リーヌスが手を頭の後ろに組んだまま口を開いた。
「あなたは?」
「やつはリーヌス。私の孫だ」
マティーアス閣下が困ったような顔をした。
「行儀なしですまない。あいつはあれでもクラッセンでは天才魔導士とよばれている。ただ、アビィが思っているクラッセン王の参謀ではない」
トルデリーゼが前に出た。
「太王太后様、私が説明させていただきます」
「あなたはエデルの護衛ね」
「はい。エデルガルト様の命でクラッセン王国に潜入し探っておりました」
トルデリーゼは太王太后様やアーベルにリーヌスのことを説明した。
「わかったわ。今までのことの全ての元凶はアウグスティーンだったのね。まさか恨みではなく憧れだったなんて」
「あぁ、私はアウグを恨んでいたが子孫を巻き込むつもりなはかった。いつか力をつけてあいつを闇に葬ろうと思っていたが、あいつは私以外にも大勢の人間に恨まれていたので、誰かに先越されてしまったがな」
マティーアス閣下は太王太后様を見て微笑んだ。太王太后様も口角をあげた。やっぱり太王太后様だったのだな。
私達はそれから、クラッセン王を潰す為の作戦を練った。
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