第50話 狸だらけ
ライムントがクラッセン王国に入ってから、心配で仕方がない。
「大丈夫よ。ライは天才魔導士なんだから。きっとうまくいくわ」
確かに天才魔導士なんだが、実は私はライムントが天才らしい魔法を使っているところを見たことがない。移動魔法を使っているのを見た時は天才だ! と思ったが、今は私も使えるので天才というわけでもない。ただ、天才を通り越して鬼才としかいいようのないトルデリーゼが天才というのだから天才なのだろう。
「ライなら国一つくらい消せるしね」
ん? 今、ベルミーナが恐ろしいことを言ったような……。
ベルミーナを見るとふふふと笑っている。
―ピーピーピー
この音はライムントからの通信だ。私は慌てて魔道具を手にした。
「ライ! 私よ。大丈夫なの?」
「大丈夫。リーヌスを連れてきた。それにマティーアス閣下も来てくれたんだ」
マティーアス閣下? まさか大伯父様? 生きていらしたの。
私は驚きで硬直してしまった。
「太王太后様と長い話をしているよ」
お祖母様は大伯父様のことをとても気にしていたから、すごく嬉しいと思う。良かったなぁ。
「エデル、一度そちらに戻るよ。太王太后様達を見ていたらエデルに会いたくなった。それに兄上と話もあるしね」
「ギルベルト様に?」
「あぁ、巻き込むつもりさ」
ライムントはふっと笑った。
「え〜、ギルを巻き込むの? ライはクラッセン王国を潰すつもりね。アーちゃんだと頼りないからギルに後始末をさせるつもりでしょ? それも面白いわね。うちの方がクラッセン王国と近いし、うちが取るのかしら?」
ベルミーナはニコニコしながら怖いことを言う。
私ははははと愛想笑いをするしかなかった。
◇◇◇
「エデル、ただいま!」
急に王妃宮に現れたライムントは私に抱きついた。
みんなが見ているのに恥ずかしい。ベルミーナは薄笑いを浮かべている。
「ライ、さっさとギルと話をしてきてはどうなの」
ベルミーナがライムントの腕を掴み、私から引き離した。
「はいはい。行きますよ。エデル待っていてくれ、すぐ戻ってくるから」
ライムントはそう言うと王宮いるギルベルト様のところに飛んだ。
◆◆ ◆ ライムント
「ライ、やっとこっちに話が回ってきたな。クラウベルクが国王を蚊帳の外だなんて、あり得ないよな」
兄上は私を見るなり近づき、腕で首を絞めこめかみをぐりぐりしてきた。子供か!
「私は私なりにクラッセン王について調べてみた。うちにはダウム家がいるんだ。調べごとは朝飯前だろう」
兄上はへへへと笑う。
見た目は無茶苦茶美形でいかにもキラキラなのだが、中身はかなり変なやつだ。しかも妃の尻に敷かれている。トルデリーゼの兄は兄上の側近。ダウム家の現当主だ。トルデリーゼよりも力があるらしい。あの兄妹はきっと人間じゃないな。
「クラッセン王はもう、バウムガルテンに兵を送ったらしいぞ。ただリーゼが幻影魔法で邪魔をしているようだ。お前、どこか適当なところで瞬間移動で現れて王の首を取ってこいよ。クラッセン王国のことは、マティーアス殿に任せれば良い。それも水面下で動いている。マティーアス殿は今バウムガルテンだろ? 年寄り同士積もる話をしながら悪巧みしているんだろうな。バウムガルテンの太王太后もマティーアス殿も狸だからな」
狸って? 兄上はガハハと笑う。イケメンがガハハはないだろう。
ほんじゃあ、私がクラッセン王の首取るか。エデルガルトは喜んでくれるかな?
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