第37話 またクラッセン王国か?
まさか、ミアの母親が他国の出身だったとは。
「エジンバラ、まさかと思うけどヘル男爵夫人はクラッセン王国の出身ではない?」
エジンバラは驚いたように目を丸くしている。
「エデルガルト様、よくご存知で。夫人は確かにクラッセン王国出身です」
やっぱりここでもクラッセン王国が絡んできたか。
私はアーベルの顔を見た。
「アーベル、クラッセン王国にテレーザリアと言う第2王女がいないか調べてみて。もしいたらアルフレッドとの縁談を打診してみてちょうだい」
アーベルはぽかんとしている。
「ほら早く!」
私は語尾を強めた。
アーベルは私の言葉の意図が分からず困っているようだ。
「私にやらせてはもらえませんか?」
エジンバラが顔を上げた。
「ロッソ家の分家はクラッセン王国から嫁いできているものが何人かおります。皆、善良な者ばかりです。ヘル男爵家は処刑されましたが、それを見て、バウムガルテン王国の王家に対して申し訳ない気持ちでいっぱいで、より忠節を誓っております。ぜひロッソ一族をお使いくださいませ」
エジンバラってなかなか重いわね。私の周りは重い男ばかりみたいだわ。あっ、エアハルトは軽かったわね。
私はアーベルの顔を見た。アーベルは私の目を見て頷く。
「では、エジンバラ頼む。できればクラッセン王国の動きも探って欲しい」
「御意」
エジンバラは消えた。エジンバラ、すっかり影っぽいじゃない。
『あちらの世界とシンクロしてきたみたいね』
トルデリーゼが念話で話しかけてきた。
『そうね。ただテレーザリアが本当にいたとしても、あちらの世界と同じような人間がどうかね』
『案外、性悪だったりして?』
『ふふふ、あの時10歳だったから、今は13歳くらいかしらね』
『本当にいたら面白いわね』
私達は顔を見合わせてくすっと笑った。
「なんだよ。ふたりで」
ライムントが眉根を寄せた。
「リーゼ、クラッセンに潜入しているダウムの影達にも探らせてくれるか?」
「もう、連絡済みよ」
トルデリーゼはウインクした。いつ連絡したんだろう? これだから魔法使いは困る。
「ロッソ家に対する処遇はこの件が全て終わってから伝える。それまでは私に協力してほしい」
アーベルがそう言うとイザックとマイアは「はい」と頭を下げた。
こちらの世界の黒幕はクラッセン王国なのかしら?
夫人が自ら無効化魔法をかけたのか、ヘルく男爵夫人達の手引きでクラッセン王国からバウムガルテンに入り込んだ間者がいて、それらが実行したのだろうか?
とにかく今はエジンバラとダウムの影からの報告待ちだわね。
私はイザックとマイアの傍に立った。
「イザック、マイア、なんで思っていることを私に言ってくれなかったの。お母様でもよかったわ。エアハルトが国王の器ではないことは皆がわかっていた。でもローザがいれば何とかなると王太子にしたの。ローザとアーベルが思い合っていたなんて知らなかったわ。知っていたら、もっと違うやり方でアーベルを王太子にし、ローザと添わせることもできたのよ。エアハルトだって別に王太子になりたかったわけじゃないの」
ふたりは驚いていた。そうだろうな。みんなエアハルトが王太子になりたがったと思っているのだろう。
エアハルトは『国王なんて無理だ! 嫌だ!』と言っていた。
それを嫡男だからと前国王(私達の祖父ね)がゴリ押しして王太子になった。そしてローザリアとの婚約も前国王が決めたの。馬鹿には賢い妃がいると。
エアハルトはローザリアに苦手意識を持っていたし、ローザリアも話が合わないから困っていた。
父なら、エアハルトを推したりはしなかっただろう。推したとしても、母や私の言葉できっと諦めたはず。前国王は力でねじ伏せるタイプの人だったもの、誰も反論させなかった。
そんなワンマンな独裁者のひとり息子が事なかれ主義の我が父とはなかなか面白い。
あの頃、前国王を黙らせる人がいれば、適材適所で選べたら、こんな事件は起きなかったし、私は10年も眠ってなくてもよかったのにね。
これも神様が退屈しないように、面白くしているのかもしれない。
もう一度神様と会って、一度膝を交えて、しっかり話をしないとダメだわね。神様なら何をしたって良いわけじゃないのよ。
私は空に向かって、心の中で神様に悪態をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます