第36話 真相に近づいたかしら?

 アーベルは頭を抱えていた。


「今決めなくてはいけないわけではないけど、私はもう、女王には戻らない。そうね。死んだことにしてもらおうかしら。ローザリアとゆっくり話をしてから決めればいいわ」


 私はアーベルの肩に手を置くとアーベルは顔を上げた。


「姉上、ロッソ伯爵家は取り潰します。そして、伯爵家の皆には死んでもらいます」

「そう。あなたが決めたのならそれでいいわ。切り捨てるのね」


 私は頷いた。


「ち、違う。それは表向きの話です。先程トルデリーゼ嬢やリアが言っていた暗部です。ロッソ家はもう表舞台から消えてもらいます。そしてトルデリーゼリーゼ嬢の家で鍛えてもらいます。今後はこの王宮に住まいを移し、ここを拠点として各国に飛んでもらおうと思います。そして、私も自分を律します。この10年、姉上の敷いてくれたレールの上を走ってきました。でもこれからはリアとふたりで歩いて行きます」


 よく言った! 頼りないけどアーベルは清廉潔白だ。きっと大丈夫。


「それでいいと思うわ。あなたの思うとおりにやりなさい」


 ロッソ家の件はこれで終わりだな。あとは……。


「私は知りたいことがあるの。私を刺したナイフに回復魔法無効化の魔法をかけたのか誰? それがわからない限り、この事件は終わらないわ。たぶんロッソ家とは何の関係もない人だと思うけど」


 これで解決したわけではない。あと少し、これがわからないと解決しない。


「ねぇ、エジンバラとイザックに会わせて」

「二人は知っていると?」


 アーベルが聞く。


「わからない。でもミアや男爵はもういないのでしょう? それならあの二人に聞くしかないわ」

「わかった。ついてきて」


 アーベルが立ち上がった。


「私も行く。リーゼも来てくれ」

「もちろんよ」


 ライムントとトルデリーゼが来てくれるなら百人力だ。


 私達は部屋を出て、ライムントの移動魔法で3人が捕らえられている場所まで移動した。


◆◆◇


「エジンバラ、入るぞ」


 アーベルが扉の前に立つ騎士を制し、水から開ける。


 エジンバラは項垂れたように椅子に座っていたが、アーベルを見て立ち上がった。


「アーベル様、私達の処遇が決まりましたか?」

「あぁ。でもその前に姉上が話があるそうだ」


 エジンバラはアーベルの後ろにいる私に気がついた。


「エ、エデルガルト様! 生きておられたのですか! 良かった、良かった。父上! 母上! エデルガルト様です!」


 涙を流しながら、奥の部屋にいる父母を呼び、膝をついた。奥の部屋から、イザックとマイアが出てきた。10年ぶりに見る二人は顔色が悪く痩せているようだ。


「お嬢様〜、申し訳ございません」


 マイアは涙で顔がくしゃくしゃになっている。


「やはり、我がロッソ家の者が生きているわけにはまいりません。死んでお詫びするしかない……」


 イザックも涙を流している。


 私はトルデリーゼの顔を見た。


『リーゼ、どう?』

『嘘はないわ。この、3人は本当に後悔しているみたいね。元々は悪い人じゃないものね』


 念話で話をしたあと、私は口を開いた。


「私は生きているから問題ないわ。それよりあなた達に聞きたいことがあるの」


 私は身体を屈めてエジンバラの顔を見た。


「なんでもお答えいたします」


 エジンバラの目は嘘をついてはいない。


「あの時、ミアが持っていたナイフには回復魔法無効化の魔法が付与してあったそうだけど、それは誰がしたの?」


 エジンバラは首を左右に振った。


「わからない。わからないのです。確かに私達はミアの封印を解き、エアハルト様を誘惑するように仕向けました。ミアはエアハルト様を誘惑し、エアハルト様はローザリア様との婚約を破棄され、廃嫡となり、アーベル様が王太子になりました。そしてローザリア様がアーベル様の婚約者になりました。私達の目的はそこで達成されました。しかし、エアハルト様を傀儡の王にして、自分で国を意のままにしようと企んでいたヘルは私達が許せなかったのでしょう。私達はヘルに脅されたのです。禁忌の魔法を使わせた主犯としてぶちまけると。何もしなくていいから目を閉じ、耳を抑え、口を塞げと。そして言われたことをやれと。私達はミアを逃しました。それからヘルからの連絡が途絶えたので、ミアとヘルは遠くに逃げたとばかり思っていました。まさかあんなことをするなんて」


 う〜ん。そんなことは聞いてないのよね。私は魔法を付与した人を知りたいのだけどね。トルデリーゼとライムントの顔を見たら、二人とも『ダメだな』というような顔をしている。


「魔法を付与した人のことは知らないのね」


 私の言葉にエジンバラは頷いた。


 アーベルはエジンバラの背中をぽんと叩いた。


「わかった。ヘル男爵は魔法は使えるのか? 精神拘束魔法だけか?」

「はい。我が家門の者は精神拘束魔法しか使えません。それにほとんどの者はまだ封印が解けていません。ただ……」

「ただ?」

「夫人が無効化の魔法を使えたのかもしれません」


 夫人? 


「そうだ! ヘル夫人は確か我が国の者ではない。どこの国に出身だったか……」


 つまりそれは後ろに後ろで他国が糸を引いている可能性があるということ?


 なんだかややこしくなってきたわね。


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