第35話 どうするアーベル
私達は移動魔法でバウムガルテン王国の王宮に到着した。
「あ、姉上! 無事だったのですね〜!」
アーベルが抱きついてきた。
「ライがついているのよ、無事に決まっているじゃない。それにしても私が寝ている間に色々やってくれたわね」
私はアーベルを睨みつけた。
◇◇◆
廊下をパタパタ走る音が聞こえる。
「お義姉様〜! お会いしたかったですわ〜!」
ローザリアだわ。
「お義姉様! 聞いてくださいませ。みんなして私を除け者にしていたのですよ!」
そういえば、ローザリアには内緒にしていたと聞いた。敵を欺くにはまず味方かららしい。
ローザリアは怒っていた。
「仕方ないわよ。アーベルは大事なローザリアを渦中に入れたくなかったのよ。私なんて魔法で眠らされて、その上、クラウベルクに避難させられていたのだからそれよりはましかもね」
私はローザリアの顔を見ながらふふふと笑った。
「それで、ロッソ家はどうするつもりなの?」
私の言葉にアーベルは顔をこわばらせた。
「まぁ、姉上、話は落ち着いてからにしましょう。立ち話もなんです。こちらのソファーに腰掛けてください」
アーベルからソファーを勧められ座るとハンナがお茶を入れてくれた。
私は念話でトルデリーゼにこのお茶が大丈夫か聞いてみた。
『リーゼ、このお茶は大丈夫かしら?』
『大丈夫よ。陛下は敵ではないわ。あなたに危害を加えようとは思ってないわ』
実の弟を疑うわけではない。誰かがどこかでまだ私を狙っているかもしれない気がする。
私はゆっくりとカップを持ち上げ口をつけた。
美味しい。やっぱりハンナの入れるお茶は美味しい。
「ハンナ、美味しいわ」
私がハンナに告げるとハンナはにっこり微笑んだ。
私はアーベルの顔を見ながらお茶を飲む。
「ねぇ、アーベル。あなたが決めればいいわ。エジンバラやロッソ家の人のことはあなたが決めなさい。あなたは国王なのよ。この10年、しっかり国王をやってきたじゃない。あなたにとってロッソ家が必要なら不問にするのもありね。彼らはあなたにとって最も信用できる家臣よ。禁忌の精神拘束魔法も王家は時には必要かもしれないわ」
私がアーベルに問いかけると、アーベルはチラッとローザリアの顔を見る。
「私は正直どうすればいいかわからない。エジンバラ、イザック、マイア、みんな私とローザのためにあんなことをした。まさかミアが暴走するとは思っていなかったんだよ。ヘル男爵まで封印が解けるとは思わなかった。アーベルとしてはロッソ親子を赦したい。でも国王としては赦してはいけないと思う。姉上ならどうしますか?」
う〜ん、そんなこと言われてもね。
でも、私なら……私なら。
「私なら完全に精神拘束魔法を使えなくして幽閉するわ。もしくは、精神拘束魔法を使って諜報活動をしてもらおうかしら? 我が国はそのあたり苦手だものね」
私はアーベルに2択を投げた。
アーベルは眉根を寄せ、考えている。
「ねぇ、発言してもいい?」
トルデリーゼが口を開いた。
「ロッソ一族の精神拘束魔法が使える人達、うちで訓練させてもいいわよ。諜報員として使いものになる水準まで鍛えるわよ。私も使えるから指導できるしね」
ダウム家で預かってくれるのか。そういえばもうひとつの世界にダウム家で修行を積んだトーマスとジェフリーがいたな。彼らはどうしているのだろう?
あちらの世界で活躍しているのかしらね。
「ライはどう思う?」
アーベルはライムントにも聞いた。
「お前、ほんとに他力本願だな。エデルはお前が決めろと言っただろう。腹をくくれ」
その言葉にアーベルは大きなため息をついた。
それを見たローザリアがカップを置いた。
「ダウム侯爵令嬢のお言葉に甘えましょう。ロッソ家は我が国の暗部になりえるかしら? 我が国には暗部なんてものはないわ。影も他国に比べると甘い。いっそきちんとした暗部を作るのもいいかもしれないわ。ロッソ家は王家、いや陛下には逆らえない。陛下を誰よりも愛しているロッソ家だからできるはずね。陛下が決められないなら私が決めますわ」
そう言い終わるとローザリアは口角を上げた。
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